【ドーハ25日=佐藤成】互いの意地がぶつかる死闘に決着をつけたのは、この男だった。2-2の延長前半11分。右サイドのFKの流れからMF荒木のパスを受けたFW細谷真大(22=柏)がペナルティーエリアに進入し、相手GKの股を抜くシュートを打ち抜いた。「(荒木)遼太郎が前向いた瞬間に、自分もポジションを取ろうとした。出してくれたので、あとは落ち着いて流し込むだけだった」。両耳に手を当てるゴールパフォーマンスで相手サポーターを黙らせた。

エースのお目覚めだった。苦しみに苦しんでいた。1~2月に同じカタールで開催されたA代表のアジア杯に選出されるも無得点。遅れて合流したクラブでは開幕から不発。そのまま臨んだ今大会でも得点が奪えず、批判にさらされた。「焦りがないといったうそになりますけど、取れていない状況は受け止めている」。仲間からも「焦るな」と声をかけられた。「チャンスは作れている。ヘディング、反転シュートは良いイメージでもっていけている。しっかりあとは決めきるということだと思います」。これ以上ない場面で得点感覚を呼び覚まし、“初ゴール”をここぞで決めた。

同じような経験があった。柏の下部組織時代。高1~2の間になかなか得点が奪えない時期が続いた。「取れていない状況でもチームのために走ることはやっていた」。献身性で長いトンネルを脱出した。この日も前線からのプレスも含めて愚直に走り続け、最後にご褒美が待っていた。

想像以上の激闘だった。前半2分にMF山田楓の左足ミドルで先制。同点に追いつかれた後も、相手GKを一発退場に追い込んで、試合の大半を優位に進めた。それでも約9000人の地元サポーターの声援に乗せられた相手の守備に苦しみ、後半開始早々にセットプレーから逆転を許した。

それでもじれなかった。チーム全員が「武器」と語るセットプレーが頼みの綱となった。後半22分に山本の蹴った右CKにDF木村が合わせて同点。劇的勝利を演出した。より一体感の増す戦いで、開催国カタールを退けて、パリ五輪にあと1勝。細谷の目線は、その先を見る。「優勝しかない。次も良い準備して、次も勝って優勝したい」と力強く誓った。