【ゲンク(ベルギー)12日】批判したいなら、俺を批判しろ!

 日本代表のMF本田圭佑(27=CSKAモスクワ)が「エースの自覚」を示した。日本は12日、現地で行われる強豪2連戦に向け、合宿をスタート。初日は右足打撲で別メニュー調整になった本田は、合宿地へ向かう道中にモスクワで日刊スポーツの独占取材に応じた。10月の東欧遠征では14年W杯の出場権を逃したセルビア、ベラルーシに2連敗。ザッケローニ監督の解任論も出ている中で「邪魔をせんといてくれ」などと熱く語った。

 言っておきたいことがあった。日本代表合宿に合流する前に、どうしても…。

 「すごい(日本代表が)批判されていることをちょこっとは聞くけど、正直なところ、俺はあんまり分かってないんよね。デカく出ているニュースでくらいしか、分かっていない」

 語り始めは冷静を装っていた。雑音はなるべく耳に入れたくないが、それでも自然と聞こえてくる。10月の東欧遠征で噴き出したザッケローニ監督の解任論。それによる、代表の仲間へと伝染するおびえや、不安感。それを危惧した。

 「どちらにしてもさ、世の中は監督を代えろだとか(安易に)批判しているだけやろ。サッカー協会の前で、デモを起こしてさ。10万人が集まって…と、なってるんか?

 ただネット(上)でたたいているだけやろ。みんなで、そんな雰囲気(解任論)が出るようにしてるだけやろ。そんなんで監督は代わらんし、メンバーも代わらん」

 さらに続ける。

 「余計なことをせんといてくれ。(日本代表の)邪魔をせんといてくれ。チームはね、信念を持ってやっているんやから。俺はいいよ。俺はどんだけ批判されてもいい。俺はシカトできるから。俺は(信念が)ブレないから」

 本田らしい熱い思い-。だが、それは明らかに、同じくW杯を目前に控えた4年前とは違う思いだった。憎らしいほどの自我をむき出しにした当時。それから人間的にも、選手としても変わった。「俺を批判しろ!」という言葉は、仲間を、そして日本を思うからこそ、出たものだった。

 「今はW杯で結果を出すために、選手一丸となって目標を持ってやっている。そんな中で、メディアやファン…。俺らに協力してくれ。ネガティブな記事が出たり、ネガティブな内容のことがネットで討論される。それがね…。俺が心配しているのは、ギリギリにいる代表の選手とかが(信念が)ブレるんじゃないか、とね」

 4年前、本田は「ギリギリの選手」だった。10年W杯南アフリカ大会の直前まで、定位置どころか、メンバー入りさえも約束されない立場だった。自分がW杯に出たい-。周囲には、それだけを考えているようにも映った。本田という人物像の根底には、そんな過去もある。だからこそ、ギリギリの選手の心理状態も読めるのだろう。

 「冷静に見たら、W杯で結果を出すという以前に(選手によっては)W杯に出たいっていう気持ちだってあるわけ」

 少し考え込むように一拍おいて、言葉をつなぐ。

 「正直、チームのためにっていうより、俺はW杯に出たいんやと、そう思っている(選手がいる)かも知れへん。いろんな考えがあるっていうこと。(選手個々の)本当の腹の底は分からん。それ(個人的な思い)を出さずに、理性を持って、1つの目標に向かってやっていこうと。監督はチームをまとめようとやっていく中で、プロやからブレたらアカンと言葉で言うのは簡単や。だけど、実際はすごい難しい。プロでも、いろんなプロがいると思うけど、ブレている人はたくさんいると思う」

 W杯ブラジル大会開幕まで、あと7カ月。日本は今年6月に本大会出場権を獲得して以降、ピタリと成長が止まってしまったかのようにも見える。本田自身でさえ、最近は日本代表でも、所属のCSKAでも、心から満足いく結果は残せていない。さらにCSKAと契約満了になる年明け1月からは、新天地に移籍することが確実。環境面の順応も、決して簡単なことではない。それでも、彼は声を大にして訴える。自分自身に重圧をかけるかのように。

 「俺を信じろ!

 本当に、信じてほしい。信じてくれたら、後悔はさせない」

 日本中の期待と不安、絶望と歓喜-。全てを背負う覚悟は、できている。【取材、構成=益子浩一】