12月6日、夜の羽田空港。U―23日本代表MF遠藤航(22=浦和)は、中東合宿に出発するチームとともに、出発ロビーに姿を現した。

 待ち受けた新聞記者に、一瞬にして取り囲まれる。しかし特に驚いた様子もなく「いいですよ」と質問に答えだした。

 当時、湘南に所属していた遠藤には、浦和も含めて5クラブが獲得オファーを寄せていた。もちろん湘南も全力で慰留。争奪戦は今オフの焦点となっていた。

 だから記者からの質問の内容も、自然と去就についての話題にシフトしていった。

 多くのクラブ、関係者の利害が交錯する、非常にデリケートな話題。それでも遠藤は的確に言葉を選び、取材に応じていった。

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 ここでノートに残った、その日の遠藤のコメントを見返してみる。

 「昨日、オファーをいただいたあるクラブの方と会ったばかり。そのお話も踏まえて、中東滞在中によく考えたいです。帰国までに決めて、お返事させていただきたいと思います」。

 「ストッパーで評価いただいているクラブが多いのですが、自分はボランチで勝負をしたい。そこは去就を決める上で大事なポイントです」。

 確かにこの前日、遠藤は横浜モンバエルツ監督と都内で会っていた。

 このフランス人指揮官も含め、ほとんどのクラブがDFとしての起用プランを提示する中、浦和はボランチとして起用する考えを示していた。

 そして遠藤は中東からの帰国翌日の14日、鹿島や川崎Fといったオファーを寄せるクラブに、断りの連絡を入れている。

 こうして答え合わせをしてみても、羽田空港で語った内容は、すべて事実だった。

 それでいて、どこのクラブに心が傾いているかといった「言質」を、記者に取らせるようなこともなかった。

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 去就が注目されるアスリートは当然、取材を求められる機会が多くなる。彼らのほとんどは、対応の機会自体を避けることで、言質を取らせないようにする。

 これはスマートなやり方にも見える。しかし普段よりもはるかに広い層に、自分やチーム、携わる競技をアピールする機会を、フイにしてしまっているという側面もある。

 何も話さない。それは何をどこまで話してよいかを「判断」すること、それから話したことに伴う「責任」を負うことを回避しているとも言える。

 サッカーに限らず、多くの競技はレベルが高くなれば高くなるほど、瞬時に高度な判断が求められる。応援するファンが増えれば、責任は大きくなる。重圧も伴う。

 いくつかの競技を取材した経験から思う。重圧に負けずに結果を出せるようなアスリートは、普段から判断すること、責任を負うことにしっかりと向き合っている。

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 羽田空港の遠藤は、何も話さないという選択肢をとらなかった。そして記者の際どい質問1つ1つに対し、どこまで話すかという判断をし、自分の発言にも責任を負った。

 的確に言葉を選んで話したことで、各方面に迷惑をかけることなく、U―23日本代表を代表して朝刊の紙面を飾った。

 そのこと自体も立派なことだと思う。しかしそれ以上に、判断すること、責任を負うことから逃げない姿勢に感銘を受けた。

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 今月13日から、リオデジャネイロ五輪出場を懸けた、アジア最終予選が始まる。

 リオ行きキップを勝ち取るには、まずサウジアラビア、北朝鮮、タイと同組の1次リーグを2位以内で突破しないといけない。その上で8チームのトーナメント戦を勝ち抜き、3位までに入る必要がある。

 道のりは厳しい。しかも日本は五輪に5大会連続出場中で、前回のロンドン五輪では4位にも入った。失敗は許されない。

 勝負どころでは1プレー、1プレーに大きな重圧がかかることになるだろう。そんな極限の状況で力を発揮できるのは、普段から判断すること、責任を負うことから逃げない選手なのだと思う。

 胸を張り、真っすぐと前を見据えて言葉を発する姿が、脳裏に焼きついて離れない。遠藤には、苦境のチームを救う活躍を期待している。【塩畑大輔】