ドーハの「歓喜」が「奇跡」に昇格した。五輪最終予選で34戦不敗の韓国に土をつける大逆転劇。優勝を告げる笛が響くと、手倉森誠監督(48)は両手を広げてピッチに駆けだした。韓国戦の2点差逆転勝ちはA代表も含めても初。胴上げでは82キロの体が3度、宙を舞った。「選手は、いい筋トレになったでしょう。3回…。もっとやれよと思ったけど(笑い)」。優勝セレモニーでは金の紙吹雪を浴び、誇らしげに優勝杯を掲げた。

 進化の証しだった。U-19代表時代は先発と控え、関東と関西など派閥が乱立し「ミスしろ。ケガしろ」と身内の自滅を願う選手がいた。2年前のオマーン大会も「環境に文句を言う」と指揮官は初采配を振り返る。荒れたピッチや過密日程に言い訳し、指示と異なる展開になると「こんなはずじゃ…」と、慌てた。

 サッカー界に進まなければ「金八先生(教師)になりたかった」という手倉森監督は人間教育に着手。バングラデシュで野犬が走るピッチで練習させたり、東日本大震災の経験を伝えたり。企業向けの講演会を行っていた話術で20代前半の若者に“授業”を開いた。

 その先生が「2失点は想定外」と明かす展開も生徒は頼もしかった。通算27戦目にして初の逆転勝ち。21戦ぶりの複数失点にも心は折れず「守りに徹して機を待つメンタルが養われてきた」。親善試合以外でU-23世代が韓国に勝つのは初めて。10人で15得点と全員攻撃も体現した。

 アジア王者としてリオへ行く。新たな競争が始まり、23人がオーバーエージ(OA)枠も含めて18人に絞られる。手倉森監督は「優勝で浮ついたり、成長にもたつきが見られるようなら、その話題(OA)であおろうと思っている」。前評判を覆す6戦全勝で進歩を示したU-23代表が、アジアの頂から世界へ羽を広げる。【木下淳】