柏のブラジル人FWクリスティアーノ(28)が、直接FKだけでハットトリックを達成した。前半11分に先制点、後半7分に勝ち越し点、2-3の延長後半11分には同点に追いつく3点目。PK戦では1人目でPKを決めて、優勝した12年大会以来の4強に導いた。直接FKで3発はJ1では開幕から23シーズン、通算6432試合で1度も達成されたことがない記録。29日の準決勝には、柏のほか連覇を狙うG大阪、J1覇者の広島、浦和が進出した。

 クリスティアーノの右足が劣勢をはねのけた。後半25分に退場者を出し、延長開始直後には2-3とリードを許した。アウェーの柏に反撃する力は残されていないように見えた。だが、延長後半11分、ゴール正面約22メートルの直接FKの好機。「決まる確率が高いと思えば全て狙う。自信があった」と振り返った背番号30の右足から放たれたボールはカーブを描き、壁の上を巻くようにゴール右に飛び込んだ。PK戦に勢いを付ける貴重な同点弾となった。

 クリスティアーノは今季リーグ戦で14点中、FKでは2点と成功率はそれほど高くない。それがこの日は前半11分、後半7分にもFKで貴重な得点。今季限りで退団するブラジル人の3発に吉田監督は「すげえな、こいつと。あの時間、あのタイミングで3つのゴールを決めた」と脱帽した。

 守備的戦術で持ち味を生かせなかった甲府から今季、期限付きで柏に移籍した。球際の強さ、無尽蔵のスタミナ、パワフルな右足でゴールを量産。しかし、完全移籍にはハードルが高かった。年俸は今季の4000万円(推定)から約3倍が目安。かつて在籍したザルツブルク(オーストリア1部)にも支払いが生じるため、柏は夏ごろに来季の契約締結を断念した。

 それでも家族が日本を気に入り、日本残留を希望するクリスティアーノは腐らなかった。「来年もいたかったから残念だけど、間違いなく最高の1年だった。このままタイトルを取りたい」。3大会ぶりの柏の天皇杯優勝のために走り続ける。

 ◆クリスティアーノ・ダ・シルバ 1987年1月12日、ブラジル・パラナ州生まれ。登録名はクリスティアーノ。コリチバなどを経て12年1月にザルツブルク(オーストリア1部)に完全移籍し15試合3得点。翌12-13年シーズンは出場機会がなく、13年1月にJ2栃木に期限付き移籍し40試合16得点。14年1月に甲府へ完全移籍。今季は期限付き移籍で柏でプレー、34試合14得点。183センチ、83キロ。利き足は右。

 ◆直接FKでハットトリック J1では開幕戦となった93年5月15日のV川崎-横浜戦から通算6432試合で1度も達成されたことがない記録。磐田MF藤田俊哉が00年5月3日のリーグ川崎F戦でPKだけで3得点、新潟MFマルシオ・リシャルデスが10年7月24日のリーグ仙台戦で1点目をPK、2点目を直接FK、3点目を直接CKと3種類のセットプレーでハットトリックを達成したケースはある。今回のクリスティアーノは90分間で2点、延長戦で1点だったが、J1の90分試合で直接FK2発も過去6人の珍しい記録。