全国高校サッカー選手権は、28日に関東圏で開幕する。

10年度に初めて日本一に輝いた滝川二(兵庫)は、今回が4大会ぶり21度目の出場になる。岡崎慎司ら多くの日本代表を輩出し続ける超名門校は、昨年から学校主導で働き方改革を導入。事実上のプロ監督体制となり、初の選手権で11大会ぶりの優勝を目指す。

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教職員の長時間労働問題について、文部科学省も業務見直しを推し進める中、神戸市西区にある私立の滝川二は、学校主導で働き方改革を始めた。

その先陣を切ったのがサッカー部。昨年3月、創部37年目で初めてのプロ監督として、OBの亀谷(かめたに)誠監督(53)を招聘(しょうへい)した。

もちろん、指導力を評価されての登用だが、現場の教職員の労働環境改善も大きな目的の1つ。名将・黒田和生初代監督から数えて4代目。教職員ではない亀谷監督が、就任2年目で早くも全国切符をつかんだ。

「(教職員の公休消化問題は)現場にすごく、負担になっていると思う」と亀谷監督。現在は同監督を含めた外部コーチが3人、教職員2人の計5人が基本的に部の運営に携わる。

だが、同監督が来るまでは、広瀬貴規顧問(37=地理歴史公民科教諭)らがピッチ内の指導を担いつつ、学校業務もこなした。それが現場を亀谷監督に任せたことで、確保が難しかった公休問題は今、同顧問は日曜日がオフ。家族との時間に費やせるという。

亀谷監督は「先生方も家族と過ごすことで、リフレッシュできる。人生の視野が広がることで、選手にいい影響を与えられ、指導にも還元できる。自分がピッチ以外のことを何も知らないのに、子どもに夢を持てとかは言えない」と話す。

保護者に対しても強い配慮を行う。遠征の帰りは極力、早い時間帯にし、送迎する保護者の負担軽減を考えている。これは亀谷流の働き方改革だ。

「(サッカーをやっていた)僕の子どもが、朝7時から練習だと言うんです。僕は『そんなの、早すぎない?』と思った。(別の学校では)遠征帰りが夜中の3時だったり。学校って意外に無神経なところもあるんです。世間常識で考えたら、おかしいでしょう」

Jリーグ鹿島アントラーズの下部組織などで指導者人生を歩んできたため、練習は基本2時間以内、先輩後輩の上下関係は好まない。

主将のMF藤田仁朗(3年)は言う。

「亀谷さんは監督を職業とされており、サッカーを研究されて知っている。僕らは学ぶことは多い。『人として信頼されるために、勉強はやっておけよ』は言われますが、すごく新鮮。スタッフとの意思疎通もすごく図れています」

亀谷監督は、滝川二の高校創設と同時に創部されたサッカー部1期生のFWだった。3年時の86年度に全国高校選手権に初出場も、初戦の岐阜工戦に0-1で敗れた。東海大一のアデミール・サントスが芸術的FKで優勝を飾った第65回大会だ。

「あの時、僕らが押し込む時間帯が多かったのに、1つカウンターを受けると、相手はすごい声援になった。そんな経験がなかった僕らは、すごいピンチに感じた」という経験を今の選手に伝え、指導者として「高校サッカーって独特で重圧もある。その中で、やりたいことをどれだけやれるか」と意気込む。

08年度大会でFW大迫勇也の鹿児島城西に2-6で大敗し、滝川二の主将が控室で「半端ないって!」と残した言葉が、流行語にもなった。輝かしい戦績はもちろん、高校サッカーの歴史や人気を引っ張ってきた名門校は今、働き方改革に正面から取り組む。最終ラインから攻撃を組み立てる果敢なサッカーを含め、令和の「滝二(タキニ)スタイル」が注目される。【横田和幸】