1918年(大7)に生まれた全国高校サッカー選手権は、第100回を迎えた。節目を迎えたのは、人気サッカー漫画も。「キャプテン翼」は、昨年に連載40周年を迎えた。育まれてきた高校サッカーの歴史とともに、描き続けられてきた主人公・大空翼のストーリー。「世界一有名な日本人選手」を通して訴えたいモノとは-。作者・高橋陽一氏(61)が、日刊スポーツのインタビューに応じた。7日から2日間にわたり、その思いを掲載する。

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「キャプテン翼」の主人公、大空翼は中学卒業後、ブラジルへ飛び立った。日本のサッカーが進化した今だったら。全国高校サッカー選手権に出場していたかも…。

高橋氏 そうですねえ…。でも多分、中学で義務教育は終わるので、翼だったら海外行っちゃうだろうなと(笑い)。小学生編、特に中学生編で、全部トーナメントでという大会は、やっぱり高校サッカーにだいぶ影響されていると思います。

連載が開始された81年は、Jリーグができる10年ほど前。注目されるサッカーの大会といえば、全国高校サッカー選手権だった。

高橋氏 年末年始見ていました。最初は水沼貴史さん、同い年なんです。川口(能活)選手は本当に、当時から漫画のヒーロー、主人公的な感じがありました。

才能豊かな選手に、筋書きのない名シーン。漫画を描くインスピレーションにもなった。

高橋氏 大久保(嘉人)選手も高校の時からすごく輝いていたり、武田(修宏)選手もキャラが立っていた。すごいロングシュートを打つ、釜本2世と呼ばれた小松選手(※1)。あとは雪の決勝戦(※2)。黄色いボールを使っていたりするのを見て、すごく漫画っぽいな、漫画に使えるなと、思いながら見てました。

独自の文化ともいえる「高校サッカー」。日本サッカー界における今後の存在感にも期待を持つ。

高橋氏 全世界のサッカーからすると、高校サッカーはある意味特別。ヨーロッパ、南米だと、ユースに残れなかった選手は割とフェードアウトしてしまう。日本だと高校サッカーで盛り返して、大学も含め、もう1回プロの道へと続いていく。部活のサッカーがどれだけこの先、日本のサッカーに貢献出来るのかなという部分ではすごく楽しみです。

「キャプテン翼」のキャラクターたちは皆、敗れた後は笑顔で勝者に思いを託す。自身の青春の経験から生まれたシーンだ。

高橋氏 僕は野球部でしたけど、その時の感覚は今でも覚えている。素直な気持ちでそうなるんだろうなと。勝敗が決した後のすがすがしさ、勝った者をたたえて、負けた者に対してもちゃんとリスペクトしている。そういうスポーツの大事なところ、いいところは漫画の中でも書いていきたいなと思っていました。

勝者の強さに敗者の尊さ。それは、高校サッカーに青春をかけた選手へのエールにもつながっている。

高橋氏 1つのサッカーを、ここで全員が終わらなきゃいけないのが高校サッカー選手権。ある意味、終わりがあるというのも1つの美しさ。負けるにしても悔いなく戦って、いい試合をやりきったと、みんなが思って終われればいいなと思います。この先もサッカーは続いていく。次に向けて人生は続いていくので。

今年の冬も、高橋氏は温かいまなざしで見守っている。高校サッカーの進化を感じながら。“翼くん”の姿を探しながら。【取材・構成=栗田尚樹、磯綾乃】

(※1)81年の第59回大会で西目農FW小松晃は、北陽との1回戦で約50メートルのロングシュートで得点。ユース日本代表での活躍で将来のエースとして期待され「釜本2世」と呼ばれた。

(※2)97年度の第76回大会決勝、東福岡-帝京戦。記録的な大雪でピッチにも雪が積もり、黄色いボールを使用。本山雅志擁する東福岡が2-1で勝利し、史上初の高校3冠を達成。