アルビレックス新潟は6年ぶりJ1舞台で開幕から5試合を2勝2分け1敗と上々のスタートを切った。攻撃的サッカーでJ1強豪クラブを出し抜こうと画策するのは松橋力蔵監督(54)や選手だけではない。相手チームの分析を担当する赤野祥朗テクニカルコーチ(32)。優れたスキルを駆使し、対戦相手を丸裸にする新潟の「007」に好調な滑り出しの裏側を聞いた。

 

-開幕5試合で勝ち点8と好調な滑り出し

「想定内。新潟には戦術を落とし込める監督と質の高い選手がそろっている」

-アナリストとして大事にしていることは

「意思決定に踏み込む。情報収集、分析、共有が仕事のフロー。説明には説得力も必要。必要なことは遠慮せずに言う」

-分析方法は

「弱点、強みが完全にクリアになるまで7、8試合は見る。映像分析ツールを使って松橋監督に提案し、その後スタッフと共有する。選手には各項目を曜日に分けて説明。効果的なポイントを20分以内にまとめてシンプルに伝える」

-分析は1人で担当するのか

「自チームの振り返りは池沢テクニカルコーチ、GK分析は石末GKコーチ、セットプレーは渡辺コーチが担当を手分けしている。全体を分析しているので必要なら助言する」

-攻略法はどんどん浮かぶ?

「サッカーはゴールへのルートの奪い合い。どう押し込むのかストーリーを立てて説明する。分析ではあるが最終的な出力は自分たちのプレー原則の強化。自分たちがこういう振る舞いをとったら相手は守りにくいよ、と伝える」

-試合中はスタンドからインカムを使ってベンチと情報を共有

「上から伝えた内容が入江コーチを通して監督の意思決定に踏み込んで生かしてもらう場面もある。面白さ半面、責任重大なので、適当なことは絶対に言えない」

-スタッフ陣の好連係もチームの好調を支える

「松橋監督はプロの選手経験もあるのに我々の意見をくみ取って役割を与え、それを成果として『ありがとう』と受け取ってくれる。他のスタッフもやりやすいと思う」

-昨季よりボール保持率は低下しているが

「落ちることは想定の範囲内で、ちょっと外(笑い)。想定より押し込まれている。1年間、安定して戦うためにもボール保持は重要。今はもう少し何かを求めていい、何かを手放していい、という見極めをしている途中」

-保持率が下がった要因は

「避けたくても避けられない状況を作って来るのがJ1。肉体的なぶつかり合いなどを含めて、五分五分のボール争いに勝っていくことがカギになる」

-守備からのカウンターアタックが鋭い

「ボールを奪った瞬間はスペースが広がっているのでルートに乗りやすい。速攻は攻撃のポイント。でも、それだけだとチャンスは数多く作れない。やはり自分たちでボールを握りながらルートに乗る作業も絶対に必要」

-J1で勝つにはどんなことが重要か

「目的に対してみんなで行動を合わせられるか。プレスをかければスペースが空くし、とどまればプレスはかからない。サッカーの目的は攻撃も守備も相反するもの。それを同時に達成するにはどうすればいいのか。ボール状況に合わせて目的、グラデーションを変えていくことが大切です」

◆赤野祥朗(あかの・よしろう)1990年(平2)12月11日生まれ、千葉県出身。八千代高(千葉)ではセンターバックで2年から主力。日体大から筑波大大学院へ。青稜高(東京)コーチ、鹿島アントラーズスクールコーチ、平成国際大コーチを歴任。15~21年はJ2金沢トップチームコーチを務め、22年から新潟テクニカルコーチに。新潟へは単身赴任で3歳の愛娘との電話が日課。

▽3月18日の第5節アウェー浦和戦は1-2で今季初黒星も、前半10分の右MF太田の先制点は分析通りの一撃だった。太田は「相手センターバックのクロス対応への立ち位置とGKの苦手なコースはスカウティングから情報が入っていた」と話した。