川崎フロンターレがPK戦の末に柏を破り、前回20年度以来3大会ぶり2度目の王者に輝いた。

延長120分間で0-0と決着つかず、最後はPKでGKチョン・ソンリョン(38)が10人目を止めて8-7で制した。MF三笘薫ら日本代表クラスが毎年のように抜ける「過渡期」に優勝。裏には、今季から主将を任されるMF橘田健人(25)の苦悩と脱皮があった。常勝軍団の伝統継承へ、新生クラブに不可欠なタイトル奪還となった。

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GKソンリョンが、再び川崎Fを頂へ押し上げた。延長戦で2度の決定機を防いだ後のPK戦。その10人目で蹴って、止めて、歓喜の山に突っ込んだ。天皇杯103回の歴史で最多となる6万2000人超に、新時代の到来を印象づけた。

過去6度のタイトル全てを知る守護神がセーブした瞬間、瞳から涙があふれた男がいた。主将の橘田。ピッチに沈み込んだが、慌てて仲間を追う。「うれしくてしゃがんだんですけど、行こうと思って。(勝って泣くのは)初めて」と感動した。遠慮するはずだった優勝杯も真ん中で掲げた。

常勝軍団の新たな1年だった。シーズン前のキャンプ。橘田は鬼木監督から主将に任命された。24歳で大役。「早いな」と驚いた一方で、けが人が続出し、クラブの調子は上がらない。自身も5月にベンチ外を経験。思い切りの良さが影を潜めた。「重圧」だった。

7月に前主将の谷口がクラブを訪れた際、助言を受けた。「チームのことを考えるのも大事だけど、やっぱりまずは自分のことを優先した方がいい」。前々任のFW小林からも「しっかり自分のやることをやるしかない」。先輩たちの言葉で、頭の中が整理された。

実はキャプテンの途中交代案もあった。「健人を、もう一段上へ引き上げたい」。そう鬼木監督から託されたが、本来のプレーを見失い、外されてしかるべき時期があった。役職を解けば、従来の輝きを取り戻せるかもしれない。指揮官は迷った。いつ告げるべきか-。「『大丈夫か?』と話を聞きました。その時は『大丈夫です』と。でも、大丈夫っていう顔じゃなかったですけどね(笑い)」。

当の本人は腐らず、自身にフォーカスし、地道に練習した。8月6日に約3カ月ぶりのリーグ先発復帰。10月3日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)第2戦の蔚山現代FC(韓国)戦、同8日の天皇杯準決勝のアビスパ福岡戦で2戦連弾。磨いてきたミドルシュートでチームを救った。

そこから、奪還まで公式戦11戦負けなし。譲らなかった主将の復調が快進撃に重なる。延長戦の最後までタフに走った。「人生で一番緊張した」PKを決めると珍しくガッツポーズ。「やってきたことは正しかったと証明された。今後の川崎に好影響を与える」。1年分の思いを爆発させた。

昨季は無冠、今季もリーグ8位に沈んだ。時代の変わり目にタイトルを奪い返し、若手や新加入選手が優勝の味を再び知った。一皮むけた若き主将とともに、川崎Fの新黄金時代が始まる予感がする。【佐藤成】