川崎フロンターレが柏レイソルを下し、3大会ぶり2度目の天皇杯優勝を成し遂げた。延長戦を終えて0-0で、PK戦は10人ずつ蹴る死闘となった。

試合後、在籍4年目のDF山根視来(29)の目には涙が浮かんでいた。「水です」とごまかしたが、さまざまな思いがこみ上げてきた。約1年前、日本代表としてワールドカップカタール大会に臨んだ。誰もが憧れる大舞台を経験し、迎えた新シーズン。チームがビルドアップなどで新たにチャレンジする中、自身の役割も増え、迷いが生まれた。「理想と自分の実力のギャップに苦しんだ」。

チームの結果が出ないことにもいらだちを覚えた。経験者として、チームを勝たせないといけない立場だったが、自分のプレーにフォーカスしなければいけなかった。そこの両立が難しかった。

リーグ戦で簡単に失点を重ね、負けることが増えた。一時は15位まで沈んだ。練習での細部へのこだわりや雰囲気に物足りなさを感じていた。「そこを意識する選手が浮くのではなくて、できない選手が浮くという環境に戻さないとなかなかタイトル取りに行けないとすごく感じていた」。

夏以降、自分が嫌われ役になった。「自分の中で、正直居場所がないくらい嫌われてもいいかなと思って、この2、3カ月はすごしてていました」。周りからは煙たがられていたかもしれない。「結構苦しかったですけどね。この優勝というものだけのために、我慢して進んできた」と報われた。

今年タイトルを取る必要性を強く感じていた。常勝クラブの伝統を引き継ぐために-。「タイトルをまだ取ったことない選手もいたので、何が何でもこのチャンスを生かして優勝して、『優勝するチームはこうなんだ』と伝えていくというのは必要だと思っていたので、よかったです」。経験豊富な右サイドバックは、安堵(あんど)の表情を浮かべた。【佐藤成】