スポーツ界でこの2年、複雑な道をたどってきたチームがある。福島第1原発から半径約20キロ圏内にある楢葉町のJヴィレッジで活動していた東京電力女子サッカー部マリーゼ。震災、原発事故で活動が不可能になり11年9月に休部。12年シーズンから、移管先のベガルタ仙台レディースで活動してきた。

 仙台で主将を務めるDF下小鶴綾(30)は2年間の複雑な胸中を明かした。マリーゼは日本女子サッカー界の最高峰「なでしこリーグ」で3位だった名門。11年シーズンの優勝を目指す宮崎キャンプ中に震災が起きた。「練習中にも涙が出た。『サッカーなんてやってていいのか』って」。

 その後、活動自粛、休部となり移籍先を探す選手がいる中、下小鶴は横浜市にある東電の支店でOLとして働いた。「『サッカーをやるならあのメンバーで』と望んでいましたので」。

 願いはマリーゼの仙台移管でかなったが、東電で働いていた者への批判もあった。

 下小鶴

 東電の元社員が「のうのうとサッカーをやっていていいのか」という人もいると思います。福島でやってたチームだから福島でやるべきと思う人もいるはず。でも福島にいいニュースを届けたい。少しでも元気づけられたらという思いです。私はサッカーしかできないので。

 「福島に恩返しがしたい」と、マリーゼからのチームメートで、なでしこジャパンDF鮫島彩(25)らと同県いわき市でサッカー教室も続けている。袖を通さなかった11年のマリーゼのユニホームは今も大切に保管している。昨年、仙台は下部リーグで優勝。なでしこリーグへの再昇格を果たし今年、マリーゼ時代に果たせなかった日本一を目指す。【三須一紀】

 ◆下小鶴綾(しもこづる・あや)1982年(昭57)6月7日、京都府生まれ。関西大在学中に日本代表となり04年アテネ五輪に出場。スペランツァFC高槻から10年、マリーゼに移籍し、なでしこL3位に貢献。12年から仙台で主将。167センチ。

 ◆震災後のマリーゼ

 11年6月、東電が実業団スポーツからの撤退を発表。マリーゼは独自で新スポンサーを探したが9月28日に無期限休部に。11月4日、ベガルタ仙台が選手を受け入れて12年のチャレンジL(下部リーグ)に参戦することが決定。12年2月1日、マリーゼに登録されていた18人に2人を加えた20人で発足。シーズン途中には、なでしこジャパンDF鮫島らが加入した。