チームを2度救うことはできなかった。「キャプテンとして、PKを外したものとして、私はその責任を負う」。イングランド主将のFWハリー・ケーン(29)は一身に背負った。

1点を追う後半9分。FWサカが倒されて得たPKを、しっかりと左隅に決めた。フランスの主将、GKロリスが跳んだ先とは逆だった。代表通算53得点で、ルーニーが保持する最多記録に並んだ。

再びやってきた同点のチャンスは後半39分。MFマウントが倒されて得たPKを託された。ケーンは1度目と同じように、ゆっくりと靴下を膝まで上げてPKに向かった。しかし力の入ったボールは無情にも、ゴールポストの上へと飛んでいった。「2度目は同じように蹴れなかった」。ロリスも1度目と同じように、右へと跳んでいた。

2人は普段、トットナムでプレーするチームメート。ロリスは前日会見で、互いの仲の良さを明かしていた。「僕たちはかなり大切な関係を築いている。9年近く一緒にプレーしている。ピッチの中でも外でも、お互いのことをよく理解している」。身近で頼もしさを感じているからこそ、特徴も理解する。「PKに関しては世界トップの1人だ。PK戦に突入する前に決着をつけたいとお互いに思っているはずだ」。ロリスは、この日の結末を予言するかのように言った。自分をよく知る“仲間”が目の前にいる。ケーンの頭に一瞬、迷いがよぎったのか。

スタンドには元イングランド代表ベッカム氏の姿もあった。PKの瞬間、目をそむけるように顔を両手で覆ったレジェンドも、04年欧州選手権のフランス戦でPKを外している。名キッカーたちも失敗する。その重圧は計り知れない。だからこそ、得点記録で並ぶルーニー氏は試合後、自身のツイッターで「顔を上げろ、ハリー」と励ました。

そして好勝負を演じたロリスは、ケーンに向けて「すべての感情を込めて言えば、正真正銘のビッグマッチだった。敬愛すべき仲間であり、いつも尊敬している」。前回ロシア大会で6ゴールを挙げ得点王に輝くなど何度もチームを救ってきたキャプテンを、誰もがたたえた。【磯綾乃】