優勝候補のベルギーは1次リーグで今大会最多9得点を挙げ、3連勝で勝ち上がった。4得点のFWルカク、MFデブルイネら抑えるのが困難な世界トップレベルの選手がずらり。中でも、レアル・マドリードが今夏の移籍の目玉として獲得に乗り出しているFWのE・アザール(27=チェルシー)を止めないことには日本の勝利はない。マンチェスター・ユナイテッドのモウリーニョ監督が駆使した戦術が大金星のヒントになるかもしれない。

 「ストップ・ザ・アザール」には、豊富なスタミナで相手に食らいつき、ロングダッシュができる原口がうってつけだ。モウリーニョ監督は、17年4月のチェルシー戦で細かいボールタッチと素早いドリブルで相手敵陣を切り裂くE・アザールの対策として「マンマーク」を使用した。任命されたスペイン代表歴もあるMFエレラは、守備力の秀でた選手ではなく、原口同様に最後まで走るタイプ。この試合に左FWで先発したターゲットが右サイドに行こうが、DFライン付近まで下がろうが、守備時は密着マークを続け、完封している。

 世界的名将はミッションを完遂したエレラを「スペシャルなパフォーマンス」と称賛。俗に「便所マーク」とも呼ばれ、相手のキーマンに「便所までついて行く」ほどの意識で守備をするこの戦術で、以降のリーグ戦3試合でE・アザールに1点も許していない。昨年12月の「クラシコ」ではRマドリードがバルセロナFWメッシをマンマークするなど、欧州のトップレベルでも使われている。

 E・アザールをマークし続けるには、スプリント力と豊富なスタミナの2つが重要となる。前を向かせてボールを持たせないことがベストだが、一瞬にしてトップスピードに入るドリブルを仕掛けてくる。ついて行くには速さが不可欠で、E・アザールへのパスを前に出て奪うにも一瞬のスピードが求められる。

 ここまでなら原口よりも守備力の高いDF長友やDF酒井高の方が適性に合っているが、攻撃時に原口の能力が生きてくる。マンマークを受けたE・アザールはDFライン付近まで下がってボールを受けることが多く、ここでボールを奪えれば絶好のカウンターチャンス。原口の得意な長い距離のダッシュ、ドリブルが武器となり、ベルギーの守備が整う前に攻め込み、数的優位を作れる可能性が高くなる。エレラも17年4月の試合でE・アザールへのパスをカットし、カウンターの一翼を担い、1得点1アシスト。2-0の勝利に貢献している。

 日本はベルギーにボールを持たれて守備の時間帯が多くなるだろう。カウンターができるのは、2、3回かもしれない。マンマークで疲労している中でもそのチャンスをつかむのは、スタミナ豊富な原口しかいないだろう。あくまで一例だが、歴史的勝利を挙げるには明白なベルギー対策が必要になる。【上原健作】

 ◆ジョゼ・モウリーニョ 1963年1月26日、ポルトガル生まれ。選手としては大成しなかったが、バルセロナの通訳などを得て、監督業に。02年からポルトガル1部ポルトを率い03-04年に欧州CL制覇。04年にチェルシーと契約し、リーグ連覇。08年からインテルミラノを率い、イタリア初の3冠を達成。10年からはRマドリードの監督に就任。リーグ、国王杯などのタイトル獲得。13年にチェルシーへ復帰。16年からは低迷を続けているマンチェスターUで指揮を執り、1年目の16-17年に欧州リーグ優勝。