赤い悪魔の“W杯最高のカウンター攻撃”が、日本を沈めた。4分と表示された後半ロスタイムの目安まで残り27秒となった48分33秒に、ベルギーGKクルトワがCKをキャッチしてから、わずか12秒25。約88メートルを一気に駆け抜けて、MFシャドリの勝ち越しゴールが生まれた。日本にとってはまさかの出来事だった。

 「延長戦」が見えていた。日本には。だから、本田のCKをGKクルトワがキャッチした瞬間、誰も前に立ちはだからず、攻撃を遅らせようとはしなかった。

 だが、ベルギーは違った。終了目安まで残り27秒。帰陣が一拍遅れた日本を尻目に、美しいほど迫力ある「全力疾走」が始まった。

 自陣から猛然と走りだしたデブルイネにボールが渡る。この瞬間、前にいたE・アザールが体を翻し、右からムニエ、中央左からシャドリも仲間を信じて駆け上がった。前線のルカクを含めた赤い悪魔5人がピッチ上できれいに広がった。

 追走する昌子の走るコースを消すように、デブルイネは左斜めにドリブルした。わずか3タッチで日本陣内に侵入。誰も追いつけないため、香川がムニエを離して近寄る。山口も立ちはだかろうとした。そこでフリーのムニエを使われた。

 長友が寄せるが、ダイレクトではたかれた。守りは長谷部だけ。ベルギーはルカクの後ろにシャドリ。さらにE・アザールもいた。誰もが打つと思ったルカクのスルーに欺かれた。そしてシャドリの左足。最後まで走りをやめなかった昌子の懸命のスライディングも及ばない。後半48分45秒。日本の時間が止められた。

 デブライネは「パーフェクトカウンター」と評し、マルティネス監督は「驚くことをやってくれた」とたたえた。0-2だった後半20分に194センチのフェライニとシャドリを投入。その4分後にフェルトンゲンの幸運な得点が生まれて、29分にフェライニの同点弾。そして、鮮やかな逆襲-。赤い悪魔の「底力」を、日本は見せつけられた。