「予選突破を決め、やっと100キロのリュックを下ろすことができた」

スペイン代表が来年のカタールワールドカップ(W杯)出場を決めた直後、大きな重圧から解放されたルイス・エンリケ監督は率直な気持ちをこう表現した。

スペイン代表はW杯予選を今年3月にスタート。これまで同様の決定力不足を露呈し、ホームでの初戦でいきなりギリシャ相手に引き分けた後、ジョージアとコソボに勝利するも、9月に敵地でスウェーデンに逆転負けを喫したことでグループ首位での本大会出場に暗雲が垂れ込め、スペイン国内ではプレーオフに回る可能性が懸念された。

その後、ジョージア、コソボ、ギリシャに連勝し、スウェーデンが取りこぼしたことで最終節を前に逆転で首位に立った。そして迎えた11月14日、スウェーデン相手に引き分け以上で本大会出場を決めることができる有利な条件で迎えた大一番、スペインはいつも通りボールをキープして主導権を握るも、堅固な守備と、時折見せる切れ味鋭いカウンターに苦しみ、点が奪えないまま時間が経過。

しかし後半41分、モラタの決勝点により1-0で勝利し、終わってみれば8試合6勝1分け1敗の勝ち点19という素晴らしい成績で、2位スウェーデンに勝ち点4差をつけてB組首位となりW杯出場権獲得に成功した。ルイス・エンリケ監督は試合後、「欧州選手権や欧州ネーションズリーグよりもプレッシャーを感じていた」と、非常に厳しい状況下にあったことを吐露していた。

スペインがW杯出場権を獲得したのは12大会連続、通算16回目。これにより22大会中、1930年と1938年は不参加だったため、実際に予選落ちしたのは1954年、58年、70年、74年の4大会のみとなっている。また、セルヒオラモス、カシージャス、シャビ、イニエスタ、ピケ、ビジャ、フェルナンド・トーレスなどを擁して初優勝を成し遂げた2010年大会から11年が経過した中、当時のメンバーからブスケツだけが今も代表で活躍している。

今回の代表の大きな特徴は、ルイス・エンリケ監督が3月(3試合)、9月(3試合)、11月(2試合)のわずか3カ月で計8試合を戦ったW杯予選に合計43人も招集したことだろう(※最終的にケガで辞退した選手あり)。

その大きな理由として、例えば今月、フェラン・トーレス、オヤルサバル、ペドリ、アンス・ファティ、マルコス・ジョレンテらをケガで欠いたように、毎回、欠場者が多数出ていたことが挙げられるが、W杯予選を通じ、こんなにも多くの選手を招集した監督は過去、スペインには存在しないとのことだ。

最も多く選手を輩出したのはバルセロナで6人(エリック・ガルシア、ジョルディ・アルバ、ブスケツ、ガビ、ペドリ、アンス・ファティ)。中でも17歳のガビがトップチームデビューからわずか1カ月で招集され、先月の欧州ネーションズリーグ準決勝イタリア戦で同国史上の最年少代表デビューを飾ったことが今予選一番のサプライズとなっている。

ルイス・エンリケ監督は1週間で2~3試合を戦うタイトな日程に直面したため、平均すると毎試合5人を超えるターンオーバーを実施し、唯一の全試合出場はGKのウナイ・シモン(ビルバオ)のみだった。W杯出場のかかる今月の重要な2試合でも指揮官はその方針を貫き通し、ギリシャ戦からスウェーデン戦にかけても先発メンバー6人を入れ替えたがボール支配率68%を記録し、いつも通りの自分たちのサッカーを展開。誰が出場してもプレーの質を落とすことがないことを証明した。

スペインは3月から今月にかけ、メンバーが目まぐるしく変わる中で数多くの試合をこなし、徐々に完成度を高めていった。W杯予選ではつまずくこともあったが、今夏開催の欧州選手権では前評判がそこまで高くない中で準決勝まで進み、先月の欧州ネーションズリーグでも決勝に進出した。ともにイタリア、フランスに惜しくも敗れ、あと1歩でタイトルを獲得できなかったものの試合内容は高く評価されており、ペドリやガビなどを筆頭に若い選手たちが頭角を現しているチームは今後に向けてポジティブな印象を与えている。

本大会まであと1年。決定力不足という慢性的な問題をクリアする必要はあるが、3大会ぶり、2度目のW杯制覇に向けてスペイン国内では期待が高まっている。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)