スペイン代表は3大会ぶり2回目の優勝を目標に掲げたFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で、前回と同じ轍(てつ)を踏む結果となった。

初戦でコスタリカに7-0と圧勝し、懸念された得点力不足を払拭(ふっしょく)したかに見えたが、ドイツに1-1で引き分けた後、日本の堅い守備を崩せずに1-2の逆転負けを喫し、1次リーグを2位通過。決勝トーナメント1回戦では守備に徹したモロッコから最後まで得点を奪うことができず、2大会連続同ラウンドでのPK戦で敗退を余儀なくされた。

スペインは10年大会に初優勝を成し遂げた後に11試合戦うも、勝利した相手はオーストラリア、イラン、コスタリカのみと、全く結果が出ていない。そんな中、今大会が失敗に終わった原因は何なのだろうか?

日本対スペイン 試合後、厳しい表情を見せるスペイン代表の選手たち(2022年12月1日)
日本対スペイン 試合後、厳しい表情を見せるスペイン代表の選手たち(2022年12月1日)

W杯敗北後、スペイン国内ではさまざまな分析が行われているが、問題点のひとつとしてストライカー不足が挙げられた。ルイス・エンリケ監督はサイドアタッカーのアセンシオを偽の9番として起用し、カタールに連れていったセンターフォワードはモラタのみ。今季のスペインリーグ得点ランキングで上位のボルハ・イグレシアス(ベティス)やイアゴ・アスパス(セルタ)などを選ばなかったことで、モラタが行き詰まった時、前線でのオプションを著しく欠いたのだった。

プレー面に目を向けると、リスクを冒さずパスをつなぐことに専念したことが指摘されている。ボール支配率で相手を圧倒したが、後ろに引かれてゴールを固められた際にゴールチャンスをほとんど作れず、ペナルティーエリア周辺でやみくもにパスを回すことしかできなかった。日本戦は83%、モロッコ戦は77%とボール支配率で大きく上回ったものの、最終的に意味をなさないものとなったのである。

スペイン代表のモラタ(2022年12月1日)
スペイン代表のモラタ(2022年12月1日)

そして、このような状況を打開するためのBプランがなかったことも敗因のひとつと考えられている。ルイス・エンリケ監督は大会を通じて調子が上がらなかったブスケツ、ペドリ、フェラン・トーレスといった選手たちをむやみに信じ、状況が悪くてもスタメンに大きな変化をもたらせなかった。選手交代もほとんど効果なく、ニコ・ウィリアムズ以外、流れを変えることができなかった。またサラビアのように、W杯前まで攻撃面で貢献していた選手をないがしろにしたことも失敗のひとつとみられている。

その他、ルイス・エンリケ監督が足技の苦手なGKウナイ・シモンにゴール前でパスをつなぐプレーを徹底させたことが批判されている。実際、日本戦ではそれを狙われ、失点の原因となっていた。

22年11月27日、ドリブルするスペイン代表ペドリ
22年11月27日、ドリブルするスペイン代表ペドリ

さらにルイス・エンリケ監督が自己批判しなかったことが指摘されている。指揮官が唯一過ちを認めたのは日本に2点を奪われた10分間のみで、それ以外ではチームのパフォーマンスに満足しているという姿勢を貫いたためである。

また、今大会でスペインが注目を集めたのは、モロッコ戦のPK戦でキッカー全員が失敗したことだろう。これまでW杯でPK戦を5回経験するも1回しか勝っておらず、W杯史上、PK戦の敗北数が最も多い国になっている。

ルイス・エンリケ監督はモロッコ戦前、「PK戦は宝くじではない」と語り、W杯に向けて代表選手たちには1000本のPKを蹴る課題を与え、準備に抜かりないことを強調していた。結果的に敗北したが、「最初の3人は私が選び、それ以降は選手たちが決定した」と話したその人選は、正しかったように思える。

1番手を務めたサラビアは大会を通じてほとんど出番がなかったものの、昨夏の欧州選手権からW杯前までスペイン代表で最も多くの得点を決めた選手。2番手のカルロス・ソレールはバレンシア時代、レアル・マドリード相手にPKでハットトリックを記録したことがあるスペシャリスト。3番手のブスケツは普段PKを蹴ることはないが、唯一のW杯優勝経験者で、過度なプレッシャーに耐えられる経験豊富な選手だったためである。

W杯敗退後、スペイン紙マルカがスペイン代表に関するアンケートを実施した。10万人以上が回答した中、W杯の出来について86%の人々が4段階評価で最低点をつけ、大きな不満を持っていた。そして、「ボールを保持するプレースタイルを変更すべきか?」という問いに対しては87%の人々が“イエス”と答え、変化を求める声が非常に多かった。

スペインサッカー連盟はW杯敗退後、即座にルイス・エンリケを解任し、昨夏の東京五輪でチームを準優勝に導いた実績を持つ、U-21スペイン代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督を後任に据えた。同監督は今回のW杯に参加したメンバーの80%以上を年代別の代表で指導したことがあり、各選手の能力を熟知する人物。監督就任会見では現在のベースを維持しつつ、「より速いトランジションに努め、得点力を高めることを目指す」と、これまでスペイン代表が慢性的に抱える問題の改善に取り組むことを宣言した。

スペイン代表は来年3月に行われる欧州選手権予選で新体制のスタートを切るが、ポゼッションに固執した前任者とは異なる、新たなプレースタイルのサッカーがお披露目されるかもしれない。

(高橋智行通信員)

ルイス・エンリケ監督(ロイター)
ルイス・エンリケ監督(ロイター)