1日に欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制したレアル・マドリードは、優勝回数を史上最多15回に伸ばし、今季を最高の形で締めくくった。
直近11シーズンで欧州CL優勝6回と、圧倒的な強さを誇るRマドリードだが、今季開幕時、誰がこのようなフィナーレを予想できただろうか。
その理由は、絶対的エースであるバロンドール受賞者のFWベンゼマが退団し、ヤシン・トロフィーに輝いたGKクルトワ、DFミリトンの2人が立て続けに前十字靭帯(じんたい)断裂の重傷を負い、攻守の要を失った状態でシーズンをスタートしたためだ。
■ベリンガムが新たなチームの柱
アンチェロッティ監督は大きな困難を抱える中、移籍金1億300万ユーロ(約175億1000万円)で獲得したベリンガムを、チームの新たな柱に据えるという大きな決断を下す。BBC時代(ベンゼマ、ベイル、クリスティアーノ・ロナウド)から培い、数々の成功を収めた4-3-3から、ベリンガムをトップ下に配置する4-4-2にシステムを変更した。
これが功を奏し、ゴールから近い位置でプレーしたベリンガムが期待以上の爆発力を発揮する。開幕から4試合連続ゴールを記録し、瞬く間に得点ランキングのトップに立った。
20歳のイングランド代表MFに率いられ、チームは開幕から公式戦6連勝と波に乗っていたが、同じ街のライバルであるアトレチコ・マドリードに行く手を阻まれる。クロスボールにうまく対応できずに守備陣が崩壊。次々と失点を重ね、7試合目にして今季初黒星を喫することになった(1-3)。
アンチェロッティ監督が後日、「成功を収めるためのターニングポイント」と語っていたように、この敗戦は崩壊した守備を立て直すための絶好の機会となった。
以降、守備の改善に努め、DF陣不足の緊急事態に対しては、MFのチュアメニやカマビンガ、さらに右サイドバックのカルバハルまで起用することで対処し、失点を大きく減らしていった。
■控えメンバーがチームを救う
11月下旬に今季最多9人の負傷者を記録し、年内最終戦でDFの大黒柱アラバが今季絶望の重傷で離脱するも、上昇気流に乗ったチームの勢いは止まらない。欧州CLではナポリ(イタリア)、ウニオン・ベルリン(ドイツ)、ブラガ(ポルトガル)と同組の1次リーグを全勝で終え、スペインリーグではジローナと勝ち点で並びながらも、首位で23年を終了した。
後半戦に入ると当然のことながら、ベリンガムがより徹底的にマークされ、試合を追うごとにファウル混じりの厳しいチャージを受けることが増え、徐々に得点から遠ざかっていった。
しかしこれを補うかのように、前半戦で2カ月ほど負傷離脱したビニシウスと、ゴールに嫌われていたロドリゴのブラジル代表コンビが調子を上げ始める。さらにクロースやバルベルデなどが中盤で攻守に渡って中盤で手綱を握り、ベンゼマの代役として加入したホセル、ミラン(イタリア)に3年間期限付き移籍で武者修行に出ていたブラヒム・ディアスなどのベンチメンバーがチームを助ける役割を果たした。
GKのレギュラー争いは序盤、クルトワの代役として急遽加入したケパがその座を射止めた。しかし、けがで数試合欠場した際、そのチャンスを生かしたルニンが存在感を発揮し、2月以降は完全にレギュラーの座を手に入れた。
■連戦続きで国王杯は敗退
チームは1月半ば、リヤド(サウジアラビア)で開催されたスペイン・スーパーカップで、Aマドリードとバルセロナ相手に計9得点を挙げて撃破し、今季初タイトルを獲得した。
その直後の国王杯でAマドリードに敗退したが、往復1万キロの移動を余儀なくされ、短期間でタフな2試合を戦ったわずか4日後の疲労が溜まった中での試合だったことを考えると、この結果は致し方ない。これは実に公式戦22試合ぶりの敗北となった。
タイトルを1つ落としたたことは残念だが、これによって過密日程から解放され、余裕が生まれたことでけが人が減少していくというポジティブな面もあった。チームはここからシーズンの終わりまで、26試合を無敗で走り切った。
■マンC、バイエルンとの激戦
「事実上の決勝戦」と言われた昨季の王者マンチェスター・シティーとの欧州CL準々決勝第2戦は、今季最も押し込まれる展開となった。「ここではあの形でしか勝てない」と言い切ったアンチェロッティ監督のコメントがすべてを示すように、チームは事前に準備してきた徹底した守備でほぼすべての攻撃を凌ぎ切り、PK戦の末に準決勝進出を成し遂げた。その3日後、クラシコを制して2季ぶりのスペインリーグ優勝を確固たるものにした。
欧州CL準決勝バイエルン・ミュンヘン戦で再び苦戦を強いられるも、ホームの第2戦で伏兵ホセルが終了間際のわずか4分間でチームを逆転勝利に導く劇的な2ゴールを決めた。サンティアゴ・ベルナベウで2年前を彷彿とさせる“魔法の夜”が再現され、世界中のマドリディスタは熱狂した。
「決して諦めないのがRマドリードのDNA」
マンチェスター・シティーとバイエルン・ミュンヘンとの死闘はまさに、アンチェロッティ監督が度々口にするこのフレーズが合致するものだった。
■決勝は9連勝含む15勝3敗
4節残してリーグ優勝を決めたことで、3週間以上の準備期間を持って臨んだ欧州CL決勝ドルトムント戦だったが、前半は攻撃がうまく機能しない。カウンターから何度も決定機を作られてしまうが、シーズン終盤に戦列復帰を果たした守護神クルトワを中心に無失点で抑えて凌ぎ切った。
そしてハーフタイム後のシステム変更が流れを大きく変え、カルバハルとビニシウスのゴールにより2-0で勝利し、2年前からの合言葉になっていた「デシモキンタ(15回目の欧州CL優勝)」を無敗で成し遂げた(今季の欧州CL成績は13試合9勝4分け)。
欧州CL優勝15回というのは、2番目に多いミラン(7回)の倍以上であり、プレミアリーグ全クラブ(リバプール6回、マンチェスター・ユナイテッド3回、チェルシー、ノッティンガム・フォレスト各2回、マンチェスター・シティー、アストン・ビラ各1回)の優勝回数と同じという途方もない数字だ。
ヨーロッパの舞台で比類なき強さを誇るRマドリードにとって、今回は18回目の欧州CL決勝となったが、その通算成績は15勝3敗、勝率83%と驚異的だ。最後に敗れたのは1981年のリバプール戦。それ以降9連勝中と、対戦相手に畏敬の念を抱かせる存在となっている。
また、欧州CL通算6回目の優勝を成し遂げたナチョ、モドリッチ、カルバハル、クロースの4人は、パコ・ヘントがRマドリードでかつて築いた、大会史上の最多優勝記録に並ぶという偉業を達成した。
■ベルナベウでは負けなし
Rマドリードは3冠を達成し、今季の全日程を終了した。公式戦成績は55試合41勝12分け2敗。ホームのサンティアゴ・ベルナベウでは25試合20勝5分けと1度も負けなかった。アンチェロッティ監督はドルトムント戦後に今季を振り返り、「10点満点だ」と満足げに語り、安堵した表情を浮かべていた。
欧州CL決勝を最後にRマドリードでの10年のキャリアに終止符を打ったトニ・クロースは、これ以上ない最高の形で有終の美を飾った。最後にヨーロッパ最高の舞台で見せたその勇姿を、世界中のマドリディスタは一生忘れないだろう。一方、ドルトムント戦翌日の優勝祝賀会でモドリッチが残留表明したことは、クロースの抜ける寂しさを少し緩和するものとなった。
そして来季、世代交代を順調に進め、ここ3シーズンで欧州CL優勝を2回成し遂げた若いチームに、フランス代表FWエムバペと若きブラジル代表FWエンドリックが加わることになる。
攻守のバランスが崩れる懸念はあるが、よりスペクタクルなサッカーを見られるのは間違いなく、Rマドリードの未来は明るいと言えるだろう。アンチェロッティ監督がどのような形でこのチームを仕上げるのか、大きな注目が集まる。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)








