バルセロナが欧州CL史上最大の逆転勝利を成し遂げた。パリサンジェルマンとの第1戦を0-4と落とし、8強進出は絶望的な状況にあった。しかし、終わってみればロスタイムの“決勝ゴール”が飛び出し、6-1の奇跡的な勝利。その裏には何があったのか?

 そこでルイスエンリケ監督が「まるでホラー映画のシナリオみたいだった」と話した試合を(1)システム変更(2)過去の対戦(3)ホームサポーター(4)勝負強さ、という4つの要因に着目し、紐解いた。

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 (1)システム変更

 2月14日に行われた第1戦のアウェー戦では、いつもの4バックで挑み、0-4と大敗した。攻守両面で歯車がかみ合っていなかった。そこで続く26日のAマドリード戦以降のリーグでは3バックを採用し、守備の時には4-4-2を併用していた。しかし、パリサンジェルマン戦では、準々決勝に4得点以上が必要なこともあり、試合を通して3-4-3で戦った。

 ポイントはトップ下に入ったFWメッシ。相手DFとMFの間でプレーすることで、相手のマークから外れる場面が生じた。中盤の選手がメッシのカバーに入った場合、左MFに入ったイニエスタ、右MFでプレーしたラキティッチに自由を与えることになる。メッシはこの試合で目立ったプレーをしていたわけではないが、相手はメッシのマークをつかみきれないことで、不安と混乱が生み出された。

 また、イニエスタとネイマールの左サイドが大きく機能した。自分でも相手選手を剥がされる2人がポジションを巧みに交換し続けたことやサイドチェンジで揺さぶり続けることで相手チームを崩した。最たる例が、チーム3点目となるPKを獲得した場面だった。イニエスタが相手DFの裏に出したボールをネイマールが走り込み、相手DFに倒された。パリサンジェルマンのエメリ監督は試合後に「もっと自分たちのサッカー、我慢強いサッカーをしたかった。ただ、バルセロナは自分たちのエリア近くでプレーをして多くのオプションを持っていた」と、新しいシステムへの対応ができなかったことを明かした。

 (2)過去の対戦

 過去の対戦に伏線となった。14年12月10日の欧州CL1次リーグで、就任1年目のルイスエンリケ監督は、パリサンジェルマンを相手に3バックを採用している。14年9月30日のアウェー戦は4バックで2-3と敗れ、続くホームは「何が何でも勝たなければいけない」と3バックで臨み、3-1で勝利した。その試合後にルイスエンリケ監督は「相手にとって一番有効なシステムを使った」と説明。長らく続いていたバルサ流「4-3-3」システムではなく、相手の布陣に合わせたフォーメーション、3-5-2を採用して結果を出した。この成功体験が、今回も生きたことになる。

 (3)ホームサポーター

 ルイスエンリケ監督は「こんなカンプノウはみたことない。現役時代に1回あるかないかの試合だ」と興奮気味に話した。9万6000人のサポーターは間違いなく12番目の選手として、チームとともに戦っていた。相手にボールが渡るたびに大ブーイングを浴びせ、自チームの選手が倒れるたびに審判への抗議を意味する口笛を吹いた。そんな“圧力”が選手の背中を押し続けた。

 (4)勝負強さ

 バルセロナは過去にも、ロスタイムの得点で勝ち抜けを決めたことがあった。08-09年シーズンの準決勝、第1戦のホームは0-0に終わり、迎えた第2戦。チェルシーとのアウェー戦で1点を追っていたが、90分間シュートを打てず、そのロスタイムにイニエスタの起死回生の同点弾が飛び出した。このファーストシュートで、2戦合計1-1ながらアウェーゴールで決勝進出をつかんだ。当時を知るピケは「イニエスタのスタンフォード(チェルシーの本拠地)でのゴールを経験しているけど、今日のは比較できない。奇跡の試合、お祭り、歴史的な勝利と話すことができる試合だ」と喜んだ。

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 リーグの下位チームからでも6点を取ることは難しい。絶体絶命だった第2戦で、フランスの絶対王者を相手に4点差をひっくり返した。戦術変更、過去の経験、勝利を信じて疑わないサポーター、そして最後まであきらめない勝者のメンタリティーを持っている選手。これら4つの要素すべてがかみ合わなければ、史上最大の大逆転劇は生まれなかっただろう。(山本孔一通信員、上原健作)