新型コロナで長く閉ざされていたとはいえ、アスリートが活躍する舞台はワールドワイド。文字通り、世界を舞台に戦う時代に入った。

各競技で、アスリートは専門的な技量とともに、自己表現のため、言葉の力も求められるようになっている。

世界中から、圧倒的な力を持つ才能が、それぞれの本場に集まる。そんな中でも、“公用語”はやはり英語となる。

スポーツ選手と英語-。

大きなこのテーマを、9月29日に東証グロースに新規上場を果たしたばかりの、株式会社プログリット(東京都千代田区)の代表取締役、岡田祥吾社長に聞いた。

同社は、英語コーチングとサブスクリプション型英語学習サービスで一気に成長し、6年で上場を果たした。

岡田氏は、テレビ朝日の弘中綾香アナウンサーと結婚したことでも注目されている時の人。スポーツが大好きで、野球少年だったという同氏自身も格闘し、突き詰め、考え続け、ビジネスとしても向き合い続ける英語とは。

まず、スポーツと英語について思いを聞いた。

 

「選手のフェーズによると思うんですが、すでに海外で活躍されている場合においては、必須だと。そのレベルにおいて、サッカーは仕事。仕事をする上で、必須だと思います。

一方で、日本で活動されているアスリートの方も、たくさんいらっしゃいます。そんな方も、英語によって、視野が広がる。将来、海外でやろうというリアリティーも湧くんじゃないでしょうか。感情的にも、海外に目を向ける際のハードルが低くなると思うんです、英語ができると。

例えば、日本のこのチームで活躍したいと感じるのと同じように、海外のここがいいな、などと、思いを抱くハードルが下がるんじゃないでしょうか。

多くのアスリートの方にとって、英語というのは武器だと思います」

 

では、英語は絶対に、必要なのか? 英語をなりわいとしている岡田氏だが、「必須ではないと思いますね」と、ここは冷静だった。

ただ「必須」ではないが、英語が身につけば、世界は広がると力説する。

 

「この日本という国は他国と陸続きではなく、少子高齢化も進んでいます。一方でGDP(国内総生産)も結構大きく、人口もたくさんいて、仕事もあります。多くの人にとって、生きていく上で英語が必要か? というと、そうでもない。

ただ、英語ができるようになると、自分の視野や世界が広がる。これは間違いないのではないでしょうか。

僕の感覚はいろいろあるんですが、やはり英語ができると、世界に友達ができやすくなる。『友達』という言い方が正しいかどうかは分からないんですが、友達とか、人間関係がうまくできやすくなる、それは間違いないと思うんです。

英語があると、自分のまわりの世界、人生が豊かになる。これは事実だと思います。ただ、全員に必須か、と言われたら、それはもう、人それぞれだと思います」

 

この言葉そのものといった現象を、岡田氏はまさに実感しつつ過ごしている。ベンチャー企業を、6年という短期間で上場までもっていった。1つの大きな節目。「僕自身は、社員のみんなへの感謝しかない」と語るが、世間的に注目を浴び、祝福の声が世界中から届いている。

 

「本当に、いろんな方にお声がけいただきました。自分自身、今まで31年間生きてきて、こんなにお祝いのメッセージをもらったことはないので。皆さんから、祝福していただいています」

 

これも、英語とともに世界に多くの友達をつくってきたからこそ、だろう。

 

大阪生まれ大阪育ち。岡田氏は、小さな頃から苦労せず、英語を話すことができるようになったわけではない。

高校3年の夏、部活を引退し、目標を大学受験に切り替えた。その頃は、英語が苦手だった。

 

「大学入試の英語の勉強では、メチャクチャ苦手だったんです、全然できなくて。センスはない、英語はキツいな、とずっと思っていました」

 

その後、1年間の米国留学で、英語漬けの毎日を過ごす。「日本語を使うのをやめたんですよね、1年間」。こうして英語を身に付け、外資系の大手コンサルティング会社に入社する。

そこで挫折を味わう。

通用すると信じていた英語力は、エリートがそろう社内では、落ちこぼれレベルだった。早々と、現実を突きつけられた。

 

「会社で契約している英会話スクールに通っていたんです。英語が下手だと認定されたので(苦笑い)、会社のお金で通っていいと。強制で通わなきゃいけなかったんです。

ただ、通っても、全く変わらなかったんです。どれだけ通っても、英語力が全然変わらなかった。これはなんか違うな、と思って始めたのが『自学自習』です」

 

いわば、スパルタ的に自分にむち打って、毎日毎日、仕事の合間に、英語学習を『自学自習』で行った。そこで、岡田氏を支えたのはスポーツ、小さな頃から打ち込んで、身につけた“耐性”ともいえる、力だった。

 

自らの人生を、「ずっと野球少年でやってきた。ずっと野球をやって、高校3年生までは、ほぼ野球しかやってませんでした」と言い切る。

高校は激戦の大阪でも、強豪として知られる東海大仰星。甲子園を目指し、3年夏、2008年の北大阪大会では4強まで勝ち上がった。この時、泥と汗にまみれて刻み込んだ、やりきる力が、英語学習の礎にもなった。

 

「野球、スポーツをやっている人はみんなそうだと思うんですが、練習は大変で、しんどいわけです。だから、しんどくても、その後、何をする時でも、野球の練習よりは楽だな、というのがあるんです(笑い)。何をするにしても、当時の野球の練習と比較したら、簡単だと思えます。その経験は生きていると思います」

 

一体どれほどの練習で、どこまで追い込んだのか-。いずれにしてもスポーツには、こんなパワーや効力もある。少なくとも、ぱっと見、とにかくスマートにしかうつらない岡田氏の軸には、こんなにも泥くさく、泥と汗にまみれて培ってきたエネルギーがある。

 

この秋は期せずして、公私ともに注目される立場になった。

 

「上場した日からは、私を含めて、会社が負うべき責任が増えました。責任感、自覚、その重さを感じています。本当に数え切れないほどの株主の方に対する責任、それが一気に大きくなりましたから」

 

プレッシャーを抱えながら、それでも戦うアスリートのように、英語を武器に、世界へ打って出ようとする姿勢。まっすぐな岡田氏にも、一切のブレはない。

 

「僕らは今、まだ始まってもいない、“デイゼロ”(始まりの瞬間)、そんなイメージです。仲間(社員)が150人くらいいるんですけど、今から日本、世界を変えていくぞって、そんな準備は整ったと思います。けれども、まだ、何も世界は変えられていない。本当にスタート地点、そんなイメージです」

 

同社が掲げるミッションは「世界で自由に活躍できる人を増やす」。それを、実践しようと、岡田氏は仲間と動き続けている。

とにかく忙しいという。大阪の野球少年だったから、好きな球団は言わずもがな。

最後に愚問を1つ。あえてどの球団のファンですか? と聞いてみた。

間髪入れず、答えが返ってきた。

 

「元“熱狂的な”阪神ファン、今は阪神ファンです。昔みたいに毎日6時に、テレビの前に座れなくなったので…」

 

今は、英語とともに、世界に打って出る人たちをサポートすることに突き進む、そんな毎日だ。

【八反誠】