陸上界に吹き荒れるドーピング問題が日本に波及した。08年北京五輪男子400メートルリレーで、金メダルを獲得したジャマイカのネスタ・カーター(30)が同五輪のドーピング再検査で陽性反応を示したと、ジャマイカ・オリンピック委員会が明らかにした。同国のリレーチームが金メダルを剥奪されれば、銅の日本は銀に繰り上がる可能性がある。当時、第1走者を務めた塚原直貴(31=富士通)は4日、布勢スプリントを前に複雑な心境を口にした。

 塚原が、怒りをにじませた。「正直複雑。聞いた時はどうすんのって思った。銀になればすごくうれしいけど、ヨーイドンで走った8チームで2番じゃない。いやー、がっかりしますよ、もう!」。カーターと同じレースで走った経験がある桐生も「びっくりしました」と口にした。

 08年北京五輪での新たな疑惑が、8年たって浮上した。ボルトがアンカーを務めたジャマイカの1走カーターが、再検査でA検体から興奮剤を使用した痕跡が発見された。予備のB検体でも検出されれば、金メダルを剥奪されて、銅の日本が銀に繰り上がる可能性が浮上。塚原は「A検体がそうならBもいずれは。時間の問題」とばっさり。その上で「彼のそういう行為がなければ、予選ラウンドで他のチームも違う結果になったかもしれない。アンチドーピングという意味で影響を受けた形」と言った。

 日本のお家芸となったアンダーハンドパスを同五輪で進言した東洋大の土江コーチも厳しく指摘した。「あとで銀と言われても『なんだよ』となる。これだけ(他国が)ドーピングをやる中で日本はバカ正直によく戦っている」。ドーピングへの厳しい処分は日本にとって追い風か、と聞かれると「追い風も何も彼らがインチキしている。ちゃんと同じスタートラインでやらせてほしい」と訴えた。

 カーターは、日本が4位だった12年ロンドン五輪でも1走を務めて金メダルを獲得した。今回の疑惑は08年北京五輪に関してだが、今後も目が離せない。

 ◆北京五輪男子400メートルリレー 日本(塚原、末続、高平、朝原)は、予選1組を38秒52の2着で通過。決勝はジャマイカ、トリニダード・トバゴに続いて38秒15の3位でフィニッシュ。トラック種目でのメダルは1928年アムステルダム大会女子800メートル銀の人見絹枝以来80年ぶりだった。アンカー朝原が北京の夜空にバトンを投げた姿は、同五輪の名場面となった。