まさか…。男子100メートルで桐生祥秀(21=東洋大)が、人生初のフライングで失格に終わった。ヤング(米国)のフライングで仕切り直し。2度目は好スタートを切ったかと思われたが、わずかに早かった。今季10秒0台を3度マークするなど絶好調で9秒台の期待が高まっていたが、2度目のダイヤモンドリーグで苦い記憶を残した。蘇炳添(中国)が10秒09で勝った。

 絶好調の桐生は世界の強豪との対戦に胸を高鳴らせてスタートラインに立った。「優勝も狙える」。1回目の号砲。フライングだったヤング以外では最も早いスタートを切った。しかし仕切り直し。約3分のインターバルの間に地元中国の高跳び選手が成功。会場は大歓声に包まれた。集中力を保つのが難しい状況で、2度目の号砲を迎えた。感覚は「ぴったり」。先頭で飛び出したが、レースを止められた。テレビカメラが自分に向いた時に悟った。「俺か」。何度も首をひねりレーンの外に消えた。フライングでの失格は「人生初」という。「ちょっと早まったかな。スタートでまさか失格するとは思ってなかった」と悔しがった。

 号砲への反応が0秒100未満は不正と判断されるスタートで、0秒084だった。今回のフライング判定装置は最終の用意姿勢を取った段階から、スタートブロックにかかる圧力に一定の変化があるとフライングを感応する仕組みだった。実際には体が前に反応していなくても、重心が前に傾けば判定される可能性がある。桐生が「ぴったり」と感じても、機械の測定は違った。

 この判定方式は各大会で異なり、土江コーチは「機械に判定されないスタートの仕方を追究しないといけない」と語った。8月の世界選手権(ロンドン)で同じ失敗はできない。高い授業料を払ったが「世界選手権の準決勝だったらどうしようもない」と同コーチは不幸中の幸いと捉えた。

 日本勢初の「10秒の壁」突破へも試練が続く。向かい風、フライング。次戦の関東学生対校選手権(25~28日)へ「悔しさをぶつけたい」と桐生。乗り越えた苦難が多いほど、強さは増していく。【上田悠太】