万全でなくても勝てるすべ-。それを当時16歳で世界最年少出場だった15年世界選手権北京大会で学んだ。リオ五輪銀メダルのガトリン(米国)と同組の200メートル予選で2着通過のサプライズを起こした。準決勝で敗退。フルパワーで2レースを走った後、激しい疲労に襲われた。翌日、関係者に「決勝に出たとして走れたか?」と聞かれて「走れないですね…」と答えたという。一方でガトリン、ボルトらは100メートル、200メートル、400メートルリレーをこなしていた。世界のトップと戦うためには複数レースをこなすタフさと勝負の引き出しを増やすことも必要と痛感。課題のスタートや序盤の加速力を磨いた。

 あくまで通過点だ。ロンドンをこう見据える。「(日本選手権は)3日間で5本走った。でも世界選手権では200メートルが1本増える」。100メートルと200メートルで予選、準決勝、決勝すべて走れば合計6本。「両方とも決勝にいきたい」と、2種目ともに決勝に進出する青写真を描く。五輪、世界選手権を通じ、決勝に進出したのは100メートルでは32年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳、200メートルでは03年世界選手権パリ大会の末続慎吾しかいない。あっさりと規格外の発言が飛び出すあたりに、日本陸上界の歴史が変わる気配が漂う。【上田悠太】

 ◆サニブラウン・ハキーム 1999年(平11)3月6日、福岡県生まれ。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、小3で陸上を始める。15年7月の世界ユース選手権で100メートルと200メートルの2冠。今春に東京・城西高を卒業し、オランダを拠点に練習。187センチ、72キロ。