ゴールすると、思わず天を仰いだ。今夏の世界選手権男子400メートルリレー銅メダルの多田修平(21=関学大)は成年男子100メートルを優勝したが、タイムは無風の10秒22だった。「内容は悪いですけど、目標だった優勝はできてよかった」と少し苦笑いしながら、振り返った。

 右膝と右足首には厳重なテーピングが巻かれている。世界選手権後もユニバーシアード、日本学生対校と連戦続き。「本気で走ったら痛みが出る。ふくらはぎとハムストリング(太もも裏)が張っていて、その結果が膝に来ているんだと思う」。満身創痍(そうい)の状態で、日本学生対校後に痛みが出てきたという。針やマッサージで治療してきたが、万全ではなかった。それでも「いい訳になるんですけど」と自分に厳しかった。

 ただ棄権はしたくなかった。この日は大阪代表として出場。今春には大阪陸協のサポートを受け、米国合宿に参加した。元世界記録保持者のアサファ・パウエル(ジャマイカ)の指導を受けるなど飛躍の一助に。だから少しでも大阪へ恩返しとの気持ちがあった。

 昨季までの自己ベストは10秒25。この日は、コンディションが悪くでも10秒22だった。この1年の成長は「正直びっくりしている」と振り返るが、満足はしていない。「桐生選手や山県選手に食らいついていく走りをして、9秒台を出したい」と力を込めた。今季の100メートルはこれが最終戦になる。昨季から自己記録を0秒18を縮めた大学3年生。オフは筋力強化に重点を置き、来季も成長を加速させていく。