11年世界陸上日本代表の野尻あずさ(37=NikoA’s Running Family)が2時間53分37秒で選手としてのラストランを終えた。

11月22日に知的障害者の人たちをサポートする伴走家の磯野茂さん(49)と結婚。当初は11月の横浜国際マラソンを最後にするつもりだったが、茂さんと出会い、結婚して一緒に伴走家の事業を立ち上げることになった。

「夫がこのレースに出るというので、それなら一緒に走ろうと。さいたま県民になったのでよろしくお願いします、という感じで。実は同じレースで走るのは初めてなんです」と最初で最後となる夫婦そろっての42・195キロを無事に完走した。「練習不足で3時間越えちゃうかと不安だったが、温かい応援で走りきることができた」と振り返った。

茂さんより30分前にスタートしたため、先にゴールした野尻は、夫を出迎えようと、着替えてゴール地点に。スマホを片手に今か今かと待ち続けた。茂さんが現れると笑顔で写真を撮った後、ゴールした夫の元へ駆け寄り、抱き合った。茂さんのタイムは2時間55分13秒とわずか1分半違い。野尻は「私の方が早かったですね」と笑顔を見せた。

出会いのきっかけは野尻の方からだった。以前から伴走家の仕事に興味があった野尻は、サラリーマンのかたわら、ボランティアで活動していた磯野さんの元へメールを送り、一緒に仕事をするようになった。選手として競技を続けながら、アスリートとしての区切りを考え始めた野尻。常に練習では自分を追い込む性格だけにきちんと向き合うことができなくなっていた。「結果を求められる中で心技体がそろわなくなった。たくさんの人との関わりも大事にしたい」と結婚を機に新しい人生を歩む決心をした。

実は陸上に転向する前はスキー選手として国体で活躍するほどだった野尻。来年の富山国体で、ふるさと選手として出場予定で「最後に地元に恩返ししたい」とスキー選手にも区切りを付けるつもりだ。

今後は茂さんと立ち上げた日本伴走家協会の理事として知的障害や、発達障害の方へのサポート事業を展開する。25歳から走り続けてきたマラソンに終止符を打った。「最後に初めて腕時計を付けずに走った。充実感があって楽しかった」と爽やかに語った。ラストランを笑顔で駆け抜けた「野尻あずさ」はこれから「磯野あずさ」として新たな人生を2人で歩き出す。【松熊洋介】