旭化成が4連覇で令和初の駅伝日本一の座に就くのか、東京五輪マラソン代表の服部勇馬(26)を擁するトヨタ自動車のV奪回か。選手層の厚さで他をリードする2強は、どの区間でトップに立ってもおかしくない。前回2位のMHPS、東日本予選を制したコニカミノルタ、マラソン前日本記録保持者の設楽悠太(28)がエースのホンダ、青学大OBが主力のGMOアスリーツなどが2強を追う。現時点でのレース展開を展望する(正式区間エントリーは大会前々日の12月30日に決定)。

 

◆1区(12.3キロ)

失敗が許されない区間だ。スローペースになることが多いが、今回は九州予選1区で区間新をマークした黒崎播磨の田村佑介(21)が、速い展開に持ち込むかもしれない。

優勝候補のチームは選手層が厚く、1区候補を絞るのが難しい。旭化成は九州予選で1区を走った茂木圭次郎(24)、高卒2年目で期待の小野知大(20)が候補。12月の甲佐10マイルに優勝した市田宏(27)の可能性もある。

トヨタ自動車は福岡国際マラソン日本人トップの藤本拓(30)の回復状況次第で区間エントリーが変わってくる。中部予選で1区を制した藤本、前回1区の早川翼(29)、今季好調の西山雄介(25)らが候補だ。

MHPSは1500メートル日本選手権4位の的野遼大(27)か、17年大会1区区間5位の目良隼人(27)だろう。

コニカミノルタは過去3年連続で1区で失敗している。東日本予選1区の我那覇和真(26)か、ベテランの山本浩之(33)で確実に上位での中継を狙ってくる。

旭化成が茂木や市田宏、トヨタ自動車が藤本や西山、コニカミノルタが山本ならハイペースも想定しての起用だろう。日本選手権5000メートル3位のトーエネック・服部弾馬(24)と、前回区間賞の九電工・中村信一郎(26)はラストスパートにも強い。初出場のGMOアスリーツは、好調の倉田翔平(27)で上位につけたい。

 

◆2区(8.3キロ)

唯一、外国人選手を起用できる区間だ。愛三工業のロジャース・ケモイ(21)が世界陸上ドーハ大会4位のスピードで2年連続区間賞となる確率が高い。

前回大会で1秒差で区間2位だったトヨタ紡織のエバンス・ケイタニー(20)も、中部予選2区で区間賞と好調だ。中国予選2区で区間2位に24秒差をつけた中電工のアモス・クルガト(27)、九州予選2区区間賞の九電工のベナード・コエチ(20)らが区間上位候補となる。

優勝候補チームでは、MHPSのエノック・オムワンバ(26)が九州予選で区間2位の走りを見せた。左ヒザの痛みがなくなり、区間賞に意欲を見せている。

前回は愛三工業がケモイでリードした。同じ展開が予想できるが、1区次第では九電工にも可能性がある。優勝候補チームはトップから30~40秒以内では中継したい。

 

◆3区(13.6キロ)

追い風も吹き、スピードランナーたちが前半から思い切り飛ばす区間だ。

旭化成は前回、鎧坂哲哉(29)の区間賞の快走で2位に上がったが、鎧坂は故障からの回復が懸念されている。鎧坂のスピード区間での起用が難しければ、茂木か、4区候補の市田孝(27)と大六野秀畝(27)のいずれかになる。

トヨタ自動車は大石港与(31)か田中秀幸(29)が走ることになるだろう。大石は17年大会で区間賞を獲得し20人抜きを演じた。田中は7月に5000メートルで13分22秒72の今季日本最高で走っている。トヨタ自動車は15年大会以降、必ず3区で5位以内までに浮上している。

MHPSは前回、途中まで並走していた旭化成の鎧坂にこの区間で1分近い差をつけられた。的野が1500メートルのスピードを生かしつつ、10キロ以上の距離に対応できればトップ集団に加わることができる。

前回はスバルの牧良輔(33)とマツダの延藤潤(28)の2人が、鎧坂と2秒差の区間2位だった。地元チームのスバルがトップに立ち沿道を沸かせ、延藤は15人抜きで8位に浮上した。コニカミノルタも菊地賢人(29)は17年大会で8人抜き、前回も5人抜きを見せている。

3区が課題だったホンダは新人の小山直城(23)と中山顕(22)が秋以降に調子を上げてこの区間の候補に挙げられるようになった。4区の設楽悠太(28)に40~50秒以内の差では渡すようだと面白い。

優勝を狙うチームも30~40秒以内ではエース区間の4区に中継したい。

 

◆4区(22.4キロ)

最長区間であり、文字通りのエース区間だ。この区間で3回区間賞の設楽悠が、今回も区間賞候補の筆頭だ。前回は体調不良で欠場したが、18年大会は旭化成との1分32秒差を詰めて、大六野と並んで5区に中継した。前を行く選手にもよるが、40~50秒差で設楽がタスキを受ければ、ホンダがこの区間でトップに立つ可能性がある。

前日本記録保持者の設楽悠、18年アジア大会金メダルで前回区間賞のMHPS・井上大仁(26)、五輪代表のトヨタ自動車・服部勇といったマラソンで2時間6~7分台の3人が対決する。個人としても負けられない上、チームの優勝のためには先頭争いに絶対に加わらなければならない。今大会のハイライトとなる。

旭化成は大六野か市田孝、マツダは山本憲二(30)か延藤、コニカミノルタは蜂須賀源(25)か菊地がこの区間の候補。優勝を狙うチームのエースとして、トップから30秒以内で5区に中継したい。GMOアスリーツはは一色恭志(25)と森田歩希(23)のどちらかが4区、もう1人が3区を担当するだろう。青学大でエースだった2人が、「初出場初優勝」のカギを握る。

九電工はMGC4位の大塚祥平(25)、中国電力は同10位の岡本直己(35)または藤川拓也(27)が走る。マラソンで培った踏ん張りで入賞につなげたい。

 

◆5区(15.8キロ)

後半のスタートとも言われる重要区間。ここで先頭が見える位置に上がらなければ優勝は難しくなる。

旭化成は村山謙太(26)の起用が有力。4区の可能性もあるが、ここ3年は5区を走って区間1位、1位、2位と快走してきた。今回も5区なら区間賞候補の筆頭だ。

MHPSは前回区間3位の定方俊樹(27)が有力だが、14年アジア大会マラソン銀メダルの松村康平(33)も復調してきている。トヨタ自動車は大石、藤本、西山と5区候補にも事欠かない。

コニカミノルタも山本と野口拓也(31)らベテラン勢が期待できる。ホンダは準エース格の田口雅也(27)、マラソンで設楽の練習パートナーもできるようになった木村慎(25)が候補だ。

マツダは前回5区区間4位の橋本澪(25)が故障でエントリーから外れた。前エースの円井彰彦(35)か成長株の向晃平(23)が起用されるだろう。GMOアスリーツはMGC5位の橋本崚(26)か。

旭化成以外のチームは4区で先行し、5区もその貯金を守るのが理想の展開だ。

 

◆6区(12.1キロ)

2区に次ぐ距離の短い区間で、チーム6~7番目の選手が起用されるが、12年大会以降はすべてこの区間でトップに立ったチームが優勝している。

旭化成は過去3大会連続区間賞の市田宏が有力だ。この区間でも抜け出す力がある。

トヨタ自動車は田中がここでの出走に意欲を見せているが、4区で区間賞も取ったことのある宮脇千博(28)や、北海道マラソン優勝の松本稜(29)らも候補。旭化成に対抗できる選手を置くことができるチームだ。

MHPSは松村と佐藤歩(31)さらに前回7区で旭化成・大六野と競り合った岩田勇治(32)のベテラン勢が期待できる。

コニカミノルタはトラックで日本代表経験のある宇賀地強(32)が好調。コーチ兼任になったが6区もしくは7区で出番がありそうだ。

ホンダも東日本予選6区区間賞の原法利(24)や、前回この区間で区間3位の服部翔大(28)ら人材がいる。

 

◆7区(15.5キロ)

勝負を決めるアンカー区間だ。この区間での首位逆転は11年大会を最後に起きていないが、前回は2秒差の2位でタスキを受け取ったMHPSの岩田が、旭化成の大六野と最後まで接戦を展開した。

ニューイヤー駅伝は赤城おろしの影響で5区以降は向かい風になることが多く、大きな順位変動は少ない。強い選手が7区にだけいても意味はなく、5区までで上位につけるチームがアンカー勝負に持ち込める。

旭化成は前回の大六野、前々回の鎧坂のように、主要区間でも区間上位の力がある選手をアンカーに残すことができる。トヨタ自動車も早川や松本、場合によっては藤本で対抗できる。

MHPSは前述の松村、佐藤、岩田のベテラントリオの誰かが起用されるだろう。コニカミノルタも野口、宇賀地、谷川のベテラン勢に最後の勝負を託す可能性が高い。GMOアスリーツは世界陸上マラソン代表だった山岸宏貴(28)や、青学大時代に箱根駅伝復路で区間賞を獲得してきた下田裕太(23)、林奎介(23)らを残すことができる。

旭化成、トヨタ自動車の2強の選手層が優勝の決め手になる可能性は高い。しかしMHPSやコニカミノルタはベテラン勢の経験力、ホンダやマツダはエースの快走、GMOは青学大出身選手の連鎖的快走で対抗する。ライバルチームが最終区で2強と並走するような展開になる可能性も考えられる。令和初の駅伝王座をめぐる戦いは予断を許さない。