個性あふれるランナーが箱根路を沸かせた。26年ぶり出場の筑波大の9区、川瀬宙夢(ひろむ)は医学群医学類の5年生。外科手術の実習や遺体解剖など医学生特有の過密日程をこなしながら力をつけてきた。

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残りわずか57秒で伝統の黄色いタスキを受け取ることができた川瀬が、戸塚中継所を出て冷静に前を向く。悔しいが10区での繰り上げは濃厚だ。「でも120%の力を出さなければ、奇跡は舞い込まない」と、ペースを上げて突っ込んだ。

箱根駅伝と筑波大医学生。「文武両道」の一言では語り尽くせない。昨年2月から入った外科手術の実習。長い日は午前8時から12時間、手術室にこもり、その後、練習したこともある。侵襲が大きい患者の様子を確認するため翌早朝、病室を訪れたりもする。

2年時は解剖学で6週間、遺体を解剖した。「そこで本当の体の中身を見た。体のつくり、筋肉の付き方を学んだ。チーム内で起きた貧血やケガの対処法など助言できるようになった」と究極の実習も、生きた実践につなげた。

将来は「スポーツに恩返しがしたい」と整形外科医を目指す。「箱根駅伝を走った医者」という珍しい肩書でスポーツを支えたい。

筑波大は第1回大会に東京高師として出場し、総合優勝。その時の2位明大、3位早大、4位慶大の4校を「オリジナル4」と呼ぶ。箱根駅伝誕生100周年の節目に第1回優勝校が久々に舞い戻り「出るべくして出たのかな」と感じた。

予選会で勝ち抜き、病院の医師や患者から「箱根、頑張ってね」と毎日のように応援を受けた。

たどり着いた鶴見中継所。10区のランナーはいない。途切れたタスキ。それでも26年ぶり出場と医学生との両立で見せた筑波の誇りは、見ている人に勇気を与えた。【三須一紀】

◆川瀬宙夢(かわせ・ひろむ)1995年(平7)9月15日、愛知県刈谷市生まれ。刈谷高をへて、筑波大へ入学。1万メートルは29分54秒50。予選会は53位。昨年の日本インカレ3000メートル障害で4位に入った。175センチ、58キロ。