平昌(ピョンチャン)五輪代表9人が、24日までの全日本選手権で決定した。その裏側で、夢舞台への道を断たれた選手たちがいる。彼、彼女たちはいかに戦って、いかに散っていったのか。今シリーズは「敗れざる者たち」と題して、全日本選手権で五輪代表を逃した選手にスポットを当てる。第1回は、女子4位の樋口新葉(16=東京・日本橋女学館高)。

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 最悪のタイミングだった。フリーを翌日に控えた22日。樋口は、公式練習で最後に跳んだルッツジャンプで右足首を負傷した。「痛みが引かなかった」。ダッシュや逆立ち歩きを行うウオーミングアップで、黙々と歩いた。痛み止め2錠と不安を飲み込み、勝負のフリーに向かったが、合計4位。それでも「昔の試合のことは全く考えず、集中して滑ることができた。周りを気にしないでやれた」と真っすぐ前を見て言った。

 2月の4大陸選手権。初優勝した三原の陰で9位に沈んだ。傷心を抱えたまま1人電車に乗って、湘南の海に行った。「ボーっと海を見ているだけなんです。3時間ぐらい」。もともと他の選手を気にしすぎて、ライバルの演技はテレビでも見ないタイプ。今月上旬に初出場したGPファイナルではフリーの直前に不安に襲われ、三原に負けたシーンが頭をよぎって最下位の6位。母実枝子さんに「やっちまった」とメッセージを送った。「いつも大事な試合で失敗してしまう」。そんな自分が嫌だった。

 GPファイナル後、リオ五輪競泳女子池江璃花子から「頑張って」とメッセージが届いた。いつもたわいもないことで笑い合う同学年の友達。「五輪に魔物っているの?」「五輪に魔物はいなかったよ」。そんなやりとりで励ましてくれる友達のエールに奮い立った。「この試合を大切にしてきた」。4年前の13年12月、さいたまスーパーアリーナ。12歳の樋口は、リンクに投げ込まれた花束を拾うフラワーガールだった。浅田真央、安藤美姫らが死力を尽くしたソチ五輪選考。「五輪選考というのはわからずに見ていた。すごく緊張感があった」。その舞台に立ち、全力を尽くした。

 世界ランク、今季ランク、今季自己ベスト、GPファイナル出場と選考基準5項目中4項目をクリア。SPで「一番簡単なジャンプ」という2回転半が1回転半(0点)でなければ、3位紀平を抜いて表彰台。5項目すべてをクリアすれば、選考は違ったかもしれない。落選後、岡島コーチに声をかけられて号泣。会場を出る際は「すみません」と目を赤くした。一夜明けた25日はエキシビションでジャンプは跳ばなかった。

 ただ極度の緊張にも、右足首の不運にも、昔の失敗が頭をよぎることはなかった。来年3月の世界選手権で倍返しする覚悟。目標は定まっている。もう1人で海にいくこともないだろう。弱気だった少女はこれから強くなる。【益田一弘】