私が大切にしている活動が再開した。それは、公益財団法人東日本大震災復興支援財団の主催で行われている「東北『夢』応援プログラム」だ。


大船渡市で行った「東北『夢』応援プログラム」(写真提供:村上正広)
大船渡市で行った「東北『夢』応援プログラム」(写真提供:村上正広)

私は岩手県大船渡市の子供たちに水泳を教えている。「再開」というのは正確ではないかもしれない。遠隔指導ツールを使い、動画を通して指導を続けてきたからだ。月1回、動画を送ってもらい、月ごとの課題を子供たち1人1人に指導するというシステム。いつも動画を見て泳ぐ姿や、コメントを見ているだけで笑顔になってしまう。私自身、この遠隔指導も日々の生活の中で楽しい時間になっている。

コロナ禍の前は、プログラムの始まりと終了時に現地へ行って、子供たちに直接指導していた。それができなくなった。今回、2年ぶりにようやく現地へ行くことができた。久々の新幹線での東北への移動時間もなんだか懐かしいと感じ、オンラインではなく、直接会うという感覚を思い出した。

この活動は5年目を迎える。私の中では、大船渡の皆さんと会うのは日常にもなっているし、普段から大船渡のことを自然と気にかけている。本当に大船渡は素晴らしい街だ。海を見渡せば、わかめの養殖が以前の姿に戻りつつある。きれいな景色と、優しい人たちは、変わらずそこにある。

2011年3月11日は、決して忘れられない日だ。これまでさまざまなことを大船渡について考えた。オンラインの文化も、このコロナ禍で定着したニューノーマルではある。とても便利だし、私は今後もこの文化をなくすことなく継続していければいいとは思っている。

しかし直接会うのは、やはり違う。雰囲気や空気、さらには子供たちの身長や、泳ぎの特徴をより近くに感じることができると改めて感じた。いろんな思いを頭の中で巡らせられたのも、現地に行って大船渡の人たちと話せたからだと思う。


水泳指導の様子(写真提供:村上正広)
水泳指導の様子(写真提供:村上正広)

水泳指導を始めると、私の泳ぎを見て「なんで速いの?」と子供たちが質問を投げかけてくる。「ひとかきでなんでそんなに進むの?」。きっとこの体験、経験が子供たちの将来に生きてくるんだろうなと思う。

私も小さい時、オリンピック選手が自分のプールに泳ぎに来てくれたときのことを覚えている。「大きな泳ぎ!すごい!」。あの驚きを今も思い出せる。子どもたちは泳ぎを見せることによって、イメージが湧いて泳げたりする。

水泳指導が終わると、「夢宣言」というものを行う。子どもたちが将来の夢や目標をコーチと話す時間だ。その内容は(1)将来の夢 (2)未来のわたしたちの街をどうしたいか (3)半年後の約束 の3つだ。子供たちは、本当に素直に書く。

特にこのイベントを象徴する(2)の項目では、「イオンとマクドナルドが欲しい」という直接的な要望も出るが、「震災の前よりもお店も人口も増えて、誰でも仲良くできる街にしたい」「震災前のスイミングの活気に戻って欲しい」「津波が来てもすぐ高いところに上れるようにしたい」といった意見も多く見られる。

震災を経験している子供もいるが、今は経験していない子も多くなってきた。私が「夢宣言」を聞くとき、東京にいる私たちも、この日本に住む以上、自分たちのこととして考えなければいけないとより強く感じる。

今の子供たちが大きくなり、いずれ大人になる。私は子供たちと接する時、今この瞬間、自分が彼らの未来に影響しているんだ、と考えている。

このプログラムで私が伝えたいことは、「大人たちは真剣にみんなの未来を考えているよ」ということ。それは月1回の動画の中であっても、しっかり向き合っていくことで伝わればいいなと思っている。

次に直接会えるのは、来年の春。一緒に楽しんで泳ごうね!と伝えたい。大船渡の皆さんありがとうございます。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)