箱根駅伝4連覇中の青学大・原晋監督(51)が今思うこと感じたことを記す「原監督のハッピー大作戦」。第4回のテーマはスポーツ界で頻発するスキャンダル騒動。今年に入って、レスリング、バドミントン、アメフト、ボクシング、そして体操…。なぜ今、スポーツ界で騒動が起きるのか。原監督は分析し、3つの理由を導き出した。

今年は次から次へと、さまざまなスポーツで問題が起きている。その背景に何があるのか。最近は常に考え、先日はかみさん(美穂夫人)と飲みながら、2時間くらい議論して大いに盛り上がった。自分なりに分析した結果、3つの理由、名付けて「トリプルチェンジ」が、スポーツ界のスキャンダル騒動につながっていると考えた。

<1>SNSの普及

情報が世の中に拡散される時代。1つのスポーツ団体、業界でことが収まらない。例えばアジア大会のバスケットボール。昔ならインドネシアで何をやっていてもわからない。もみけしもできただろう。我々世代のスポーツマンはそういうところで遊んだ人もいっぱいいた。今は瞬時に拡散される。隠しようがない。あっという間。平成、特にこの10年間のスマホの普及も大きい。

<2>ゆとり教育の功罪

まずは功罪の功の部分。ゆとり教育には自ら考え自ら行動するような狙いがあった。自分の言葉でものごとを考え、主張する。そんな教育で育てられた子供たちの中には、世界で戦えるアスリートがでてきた。大谷選手、錦織選手、羽生選手…。自ら考え行動していく。自分を持っている。今回の体操問題でも18歳の宮川紗江選手が会見した。物言えば唇寒しではないが、大人たちでさえ、恐怖心もあり事なかれ主義に陥り、ものが言えなかったにもかかわらず、18歳が堂々と自らの考えを主張。それが今回の問題を明るみにした。自らの考えをしっかりと言えるような社会的教育の流れが大きかったと感じる。

次は功罪の罪の部分。これは指導していても感じるが、ゆとり世代の人たちには、傾向として先輩を敬う心、指導者を敬う心、過去の人を敬う気持ちが薄くなっていると感じる。そして好きなことはやるが、いやなことがあるとすぐそっぽをむく傾向もある。食事も嫌いなものは食べない。我慢が足らない。自主性、自由と好き勝手をはき違えている面がある。そして、そんな選手たちに、指導者が腫れ物を触るように、きつい言葉を言いづらい世の中になっている。 

<3>スポーツ選手の社会的評価の高まり

昔、1億総プロ野球解説者と言われた時代があった。巨人戦のナイターを見てビール飲みながら文句を言う。翌日、サラリーマンは前日の巨人戦の話で盛り上がる。現代は野球だけでなく、興味は多競技に広がった。そして2年後には東京オリンピックもある。それぞれの競技の社会的価値が高まった。価値が増したからこそ、マスコミにも取り上げられ話題になる。マイナー時代は、何かあっても誰も興味を抱かなかったが、今はマスコミも監視。そして問題が起きれば、話題の遡上に挙がり、国民的な議論になる。

以上の3つの理由、いわゆる「トリプルチェンジ」がスポーツスキャンダルの背景にあると思う。先日(青学大の)ミーティングでも話したが、学生たちは理解してくれた。

このような変化で、これまでの常識も変わった。かつては愛のむちのような暴力指導、強引な指導で名指導者といわれても、今ならパワハラに陥ってしまう。体操のような問題は、自分の陸上界でもゴロゴロとあるし、まだまだはびこっている。東京オリンピックまであと2年。このままではまた次々と問題は出てくるだろう。スキャンダル防止のためにはどうするか。本来ならスポーツは国の関与を許すべきではないが、今回はスポーツ庁が解決に乗り出すべきだ。問題が起こってから動くのでなく、しっかりと方向性を出さないといけない。対処療法でなく、抜本的な改革の方針を打ち出すべきだろう。

残念なのは、スキャンダルに見舞われた日本ボクシング連盟の山根前会長、今は体操の塚原夫妻。ともに競技に尽力し、良いこともしてきたのに、過去の何十年のすべてを全否定されること。上記のような「トリプルチェンジ」で周囲の環境の変化も大きい。自分の持論があるなら、持論を通す。そして「でも時代には合わなくなりました」でいいのではないだろうか。世の中はマルかバツか、100かゼロではないのだから。(ニッカンスポーツ・コム/コラム「原監督のハッピー大作戦」)