「格闘技じゃない、ボールゲームですよ。そんなこと言われるから、ダメなんですよ!」。水球男子の大本洋嗣監督は「水中の格闘技」という言葉を嫌う。「スピードや技術、戦術もあるのが水球。ただフィジカル勝負だけではつまらないし、飽きられる。ファンが離れ、競技者も減る。未来はないです」。高い理想を掲げ、代表を率いる。

大会も後半になり、敗退して去る選手も増えた。団体球技も、残りチームが減った。水球男子は2日、1次リーグ最終戦で南アフリカに24-9で大勝。37年ぶりの五輪勝利も、1勝4敗の5位で大会を終えた。

「パスライン・ディフェンス」。日本が世界中を驚かせた守備戦術だ。普通は相手の背後でゴールを守るが、あえて前に出る。パスカットを狙うが、通されたらGKと1対1。リスクはあるが、奪えば速攻ができる。高い位置で守るから、攻撃への切り替えで数的な有利もつくれる。実は、超攻撃型戦術でもある。

12年ロンドン大会後に取り入れ、16年リオデジャネイロ大会は32年ぶりにアジア予選を突破して出場。大胆な戦術が、これまでの常識を破った。リオでは全敗したが、欧州の強豪と競り合えるようになった。ワールドリーグ(国別対抗戦)では18年に4位。メダルは射程圏内に入っていた。

今大会も3連敗で早々と敗退が決まったが、いずれも大接戦。今大会で代表を引退する志水は「本当に日本の水球は変わった」と話した。独自の戦術は改良され、完成度を高めた。しかし、新型コロナで試す機会がなかった。「実戦経験不足は不安」と大本監督が話した通りの結果だった。

日本が勝つためにフィジカル勝負を避けるのが当初の狙いだったが、その裏には「脱格闘技」がある。欧州で人気の水球だが「他のスポーツに比べ、戦術的には遅れている」と同監督。サッカーやハンドボールなど他の球技を参考に、取り入れたのが「パスライン・ディフェンス」だった。

かつての世界の女子サッカーは、ゴール前に蹴り込み、フィジカル勝負でゴールを狙うスタイルだった。11年W杯、日本が連動するパスサッカーで頂点に立つと、一気に各国が取り入れた。女子サッカーにパス戦術が浸透し、競技レベルは飛躍的に向上した。

男子のサッカーも、かつては蹴って走るが主。DFとFWは完全分業で、MFが攻守をつないだ。それが全員が攻守に動くスタイルに変わり、守備戦術も高度になった。ミケルス、サッキ、クロップ…。大本監督が理想を追う姿は、そんな監督たちにも似ている。

「ポセイドンジャパン」の海神たちと大本監督の東京五輪は終わった。1次リーグ敗退で大きな注目を集めることはできなかったかもしれない。それでも「日本が水球を変える」という高い志は、これからも持ち続けて欲しい。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)