ウィンブルドンに行きたい! 子どもの時の夢を、選手ではなくトレーナーでかなえた女性がいる。

3度の4大大会優勝を誇る世界3位の大坂なおみ(23=日清食品)のチームの1人で、大坂を心身ともに支える茂木奈津子アスレチック・トレーナー(AT)だ。体のケアの専門家で、チームただ1人の女性として、姉のような存在だ。

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テニスが大好きだった。両親の影響で、遊びでテニスを始めた小学生の時、テレビでウィンブルドンにくぎ付けになった。「あそこに行きたい。あの芝の上で走り回りたい」。芝の上は無理だったが、その夢を、世界の女王を支えるトレーナーとしてかなえた。

小さい頃から“医療フェチ”だった。慶応女高1年の時、両ひざに「たな障がい(ひざ内部で炎症を起こす疾患)」という故障を負った。「自分のひざの中を見たかった」と手術を決意し、車いすや松葉づえにも興味を持ち、リハビリにも積極的に取り組んだ。「どうやってケアできるか」。目の前で行われることが新鮮だった。

慶大を卒業し、専門学校に通い、はり・きゅうマッサージの国家資格を取った。日本スポーツ協会の公認AT資格も取得し、縁があり、日本テニス協会の女子代表のトレーナーとして働き始めた。そして17年ウィンブルドンで、初めて大坂と出会った。

第一印象は「しゃべらない。人見知りでシャイ」。それでも、大坂は、茂木さんの存在が気になったようだ。同年全米で、協会ではなく、個別に依頼をしてきた。茂木さんは、打ち解けようと、ニューヨークで買い物に行くのを誘った。大坂は付き合った。「他人と外に一緒に出るなんて見たことがないと、周囲はびっくりしていた」。18年2月から正式に専属となった。

実は茂木さんは一時、トレーナーの仕事を離れたことがある。大坂に出会う直前の時期だ。「学生の頃、海外に行くのが夢だった。その夢がまたわいてきた。1人の女性としても働き方を考え直す時期だった」。しかしトレーナーの世界、そしてスポーツの世界は魅力だった。

AT冥利(みょうり)とは「痛みがあったり、100%じゃない状態でも、ケアすることで最後まで選手がやりきれた時は、本当にうれしい」。夢だったウィンブルドンはかなえた。代表チームのケアもできた。残った夢は「オリンピック」だ。開催可能かどうかは別として、その舞台となる東京五輪は7月に迫っている。【吉松忠弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

インタビューで笑顔を見せる茂木奈津子氏(撮影・たえ見朱実)
インタビューで笑顔を見せる茂木奈津子氏(撮影・たえ見朱実)
茂木奈津子トレーナー(左)と話す大坂なおみ(2020年1月6日撮影)
茂木奈津子トレーナー(左)と話す大坂なおみ(2020年1月6日撮影)