ただ、手をこまねいてばかりではなかった。21日の蔵王大会後、都内に戻り、欧州遠征出発の25日までトレーニングを重ね、再調整した。前日の第11戦では2位に甘んじたものの、2回目は98メートルを飛び復調気配を示していた。その中で節目の勝利をつかみ「試合を重ねて徐々に良い方向にもっていければ」と声のトーンも上がった。

 スキー競技でのW杯50勝はアルペンで「爆弾男」の異名を持つアルベルト・トンバ(イタリア)に並ぶ。高梨はジャンプ女子のW杯が始まった11~12年シーズンから参戦し、6季目の個人戦85試合目で到達。過去11人しかいなかったゾーンに入った。ジャンプ界では、「鳥人」と呼ばれた名選手マッチ・ニッカネン(フィンランド)の46勝を12月に抜き去り、男女を通じて最多53勝のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)まであと3つ。以前から男子との記録を比較されると「土俵が違うので」と恐縮しながら「偉大な選手と並べてもらえるのは光栄」と語ってきたが、20歳にして自らが歴史的な選手になりつつある。

 14~15年シーズンに6試合続けて勝てなかったことがあった。その時も同じルシュノブで優勝し、悪い流れを断ち切った。今季最大目標となる2月の世界選手権(フィンランド)へ、軌道修正。日本が誇る女王は、新たな領域に踏み出していく。

 ◆高梨沙羅(たかなし・さら)1996年(平8)10月8日、北海道・上川町生まれ。上川小2年でジャンプを始める。女子W杯が始まった11~12年シーズンにW杯初優勝。13年世界選手権では、混合団体で金、個人で銀メダルを獲得。14年ソチ五輪は4位。W杯個人総合を3度制している。家族は両親と兄。152センチ、44キロ。