平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)代表の伊東大貴(32=雪印メグミルク)が、大逆転で今季初優勝を飾った。1回目に130メートルで4位。2回目には138メートルの大ジャンプを飛び3つ順位を上げた。五輪後は、今季のW杯(ワールドカップ)初戦で転倒し右肩を脱臼した影響で残りのW杯をキャンセル。練習なしの「ノー・ジャンプ調整」でも貫禄を見せた。来季への現役続行も示唆し、手負いの勝者は、五輪イヤーを最後まで全力で駆け抜ける。

 誰もが想像だにしなかったシナリオが待っていた。伊東は1回目を終えて、トップと飛距離に換算して約10メートルもの大差をつけられ4位だった。今季前半に負った右肩の脱臼の状態も思わしくない。厳しい状況で飛びだした2回目。風に乗り138メートルまで飛距離を伸ばし着地。その時点で首位に立ったが、自身も勝てるとは思わず、ジャンプ台を背に、報道陣の取材を受けていた。

 質問を受けている間、1人、また1人と失速し、最後の内藤が125メートルにとどまり、報道陣に「勝ったよ」と声をかけられると「えっ」と驚きの表情で振り返り、電光掲示板に目をやった。今季初優勝が転がり込み「まさかね。でも、出るからには勝ちたいと思っていたのでホッとしている」と少しだけ笑った。

 まさに、手負いだった。今季のW杯初戦で転倒し、右肩を脱臼した。普通だったら「飛んでいない」と言う重傷。4度目の大舞台は痛みをおし出場したが、目指した個人メダルには届かなかった。次に転倒したら今後の選手生活にも影響を及ぼしかねない。後半のW杯の出場を断念。ジャンプ練習をせず大会のみぶっつけで出場。天候の悪かった9日のノーマルヒルを回避するなど慎重に慎重を期してきた。「今までと同じ動きをしても体のバランスがずれる。それが一番つらい」と苦しい胸の内を話す。

 4年後の北京五輪を問われると「周囲とも考えて結論を出したい」と話すにとどめたが、来季に向けて「世界選手権(オーストリア)を目標にしていかないと」と現役続行を示唆。羽を休め、大貴は世界の空に必ず戻ってくる。【松末守司】