体操界に美しき新王者が誕生した。男子決勝で、予選2位の谷川翔(かける、順大)が合計172・496点で優勝し、「キング」内村航平(29=リンガーハット)の11連覇を阻止した。

 19歳2カ月での優勝は、96年に19歳4カ月で制した塚原直也を超える史上最年少記録。手足まで神経の行き届く日本伝統の美しい体操で、新エースに躍り出た。

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 内村が国内で11年ぶりに敗れた日、その美しい体操を受け継ぐ新王者が生まれた。その名は谷川翔。「まさか勝てると思わなかった。めっちゃ、うれしい」。谷川は歴史が変わった日を今も覚えている。08年全日本選手権。当時の王者富田洋之を破り、大学2年生で初優勝したのが内村だった。「え? 内村航平という人が勝ったんだ…」と驚いてからちょうど10年。今度は自分が同じ大学2年生、ほぼ無名の状態から頂点に登り詰め、「実感がわかないです」と初々しく笑った。

 美が勝利を引き寄せた。「美しい体操が目標」。競技を始めた小学1年生から、つま先、膝、姿勢を美しく保つことをたたき込まれ、それが武器となった。この日も第1種目の床運動で白井に離されたものの、2種目目の得意のあん馬で1位に浮上。「ずっとスクリーンの1位というのが見えていた。緊張したけど、『頼む』と言ってやった。夢のようだった」。すべての試技を大きなミスなく丁寧にこなし、出来栄えを示すEスコアで内村、白井を上回る合計点をマーク。最後までトップを守り続けた。

 決してまぐれではない。もともと才能はあったが、高校2年生で発症した腰痛に悩まされてきた。順大に入学した昨年は動けなくなるほどの激痛に襲われた。ようやく練習が積めるようになったのは昨年12月。世界選手権に初出場した兄航にも刺激され、「俺も(日本代表に)入ってやる」とこの大一番に合わせてきた。白井は「ずっと自分の前で演技をしていて、次やるのにほれぼれするような美しい体操だった」と絶賛。内村も「予想外で急にドンときた」と驚きながらも「いい演技をした人が1番になる。その通りだと思った」と後継者を認めた。

 端正なマスクを持ち、華も感じさせる。幼少の頃は兄と一緒にアクション俳優ショー・コスギが代表を務める「ショー・コスギ塾」に所属。「アクションだけでなく、英語などいろいろ学びました」。“体操の達人”として話題を呼び、TBSの歌番組「うたばん」でとんねるず石橋、元SMAP中居の前でランドセルを背負いながらバク転を披露したことも。子役で鍛えた度胸も備わる。

 「まだ19歳。これで満足しないで、東京五輪、次の東京五輪に向けて頑張っていきたい」。体操ニッポンの新たな歴史が、ここから始まる。【高場泉穂】

 ◆谷川翔(たにがわ・かける)1999年(平成11)2月15日、千葉県船橋市生まれ。小学1年の時、兄航に影響され、船橋市の「健伸スポーツクラブ」で体操を始める。法田中3年時に全国中学校選手権個人総合で優勝。市船橋高3年時には全日本選手権10位。17年種目別選手権あん馬4位。得意種目は床運動、あん馬、平行棒。好きな言葉は「Never give up」。趣味はグミを食べることで、好きな銘柄は「コロロ」。性格は「自分はけっこう周りに合わせるタイプ」(谷川)で、兄航いわく「愛想が悪いけど、怒ってるわけじゃない。優しい」。憧れの選手は谷川航(兄)、冨田洋之。154センチ、51キロ。