今季限りでの現役引退を発表したラグビー元日本代表FB五郎丸歩(34=ヤマハ発動機)が16日、浜松市内で記者会見を行った。
「残り1シーズンを戦う気力、体力しか残っていない」と決断した理由を説明した。会見ではキックの際に両手を体の前で合わせる「五郎丸ポーズ」への思いも明かした。日本ラグビー界発展のために走り続けた男は、来年1月16日に開幕するトップリーグでファンへの感謝の思いを胸に戦い抜く。
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涙はなく、すがすがしい表情だった。スーツ姿で登壇した五郎丸はゆっくりと口を開いた。「3歳から始めたラグビーを終える寂しさはありますが、32年間全力で走り抜けました」。周囲からは引退を惜しむ声もあったというが、悔いはない。来年3月に迎える35歳を節目とし「(ヤマハ発動機と)契約した瞬間から35歳までは第一線で戦い抜く決意だった」と明かした。
ラグビー人気の火付け役となった。「魅力を広めることも自分の使命だと思っていた」。野球とサッカーの2大スポーツに比べれば知名度も低かったが、15年のW杯イングランド大会を機に取り巻く環境は一変。初戦で強豪の南アフリカを破る歴史的金星を挙げると、自身もキック前に行うルーティンの「五郎丸ポーズ」で一躍時の人となった。
ただ、本意ではなかったという。ラグビーはチームスポーツ。「1人にフォーカスされる違和感を覚えていた」。帰国後はテレビへの出演オファーが殺到。CMに起用され、その年の新語・流行語大賞の候補にもなった。自分だけが注目されていいのか-。葛藤の中で見つけた答えは1つだった。「あのポーズがきっかけで1人でも好きになってくれれば、ラグビーを続けてきた意味がある」。フィーバーぶりを前向きに捉えて魅力を発信してきた。
全てはファンのため。特に15年以降は「いろんな人に応援してもらい、支えてもらった」。異例となるシーズン前の引退発表もファンへの思いを優先した形だ。トップリーグは来月16日に開幕する。だが、新型コロナウイルス感染の影響が長引けば、全日程が開催される保証はない。今年1月の昨季も予定の15試合を消化できず6試合で終了。五郎丸は「もしかしたら中断するかもしれない。そのことを考えれば、シーズン前にごあいさつすることが礼儀だと思った」。
引退後については「引退したら考えます」。今は、選手として迎えるラストシーズンを全力で走り抜けることしか頭にない。ファンを愛し、ファンから愛された五郎丸。日本ラグビー界を発展させるための仕事は、まだ終わっていない。【神谷亮磨】
◆ルーティン プレー前に選手が一定のパターンの動作を取ること。メンタルコントロールの1つで、大事な試合などでベストパフォーマンスを引き出すために練習段階から「定型」を決めておく。本番でもそれを履行することで緊張や不安に襲われず、精神状態を落ち着けて安定したプレーにつなげる意図がある。元メジャーリーガーのイチロー氏のバッターボックスでの一連の動作や、フィギュアスケート羽生結弦が演技のスタートポジションに向かう際の動きなども有名。
◆五郎丸のルーティン ボールを2度回してセットした後、3歩後ろに下がり、左横に2歩動く。下から上へ押し上げるように右手を振り、祈るように両手を組み合わせた後、8歩助走して蹴る。キックする際には、同じテンポで助走するために「ドレミファソラシド♪」のリズムを自身で唱えてステップする。ただヤマハ発動機に復帰した17年には「五郎丸ポーズ」は封印。動作の省略について「イメージは体に染みついている、大事なのは体重移動」と話した。
▽15年W杯VTR
◆南アフリカ戦 29-32の3点差で迎えた試合終了直前、敵陣深い位置でPKを得たが、同点のペナルティーゴール(PG)ではなくスクラムを選択。南アフリカのFWがシンビン(一時退場者)で数的優位だったこともあり、最後はWTBヘスケスが左隅に飛び込んでトライ。34-32で逆転した。五郎丸は日本代表のW杯1試合最多24得点。
◆スコットランド戦 日本は前半にPGで先制を許すも、NO8マフィのトライなどで一時逆転。南アフリカ戦から中3日の影響から後半に入って運動量が落ち、後半だけで5つのトライを許して10-45で敗れた。五郎丸も1ゴール1PGの5得点にとどまった。
◆サモア戦 FW戦で優位に立った日本は五郎丸のPGなどで前半を20-0とリード。後半も手堅くキックで加点し、26-5と危なげなく勝ち切った。五郎丸は2ゴール4PG。
◆米国戦 五郎丸は2ゴール3PGで2試合連続マン・オブ・ザ・マッチ。試合は28-18で勝利したが、3勝で並んだ南アフリカ、スコットランドにボーナスポイントで及ばず、決勝トーナメント進出はならなかった。


