天理大(関西1位)が、3度目の決勝で初優勝を飾った。2連覇を懸けた早大(関東対抗戦2位)に55-28。決勝最多55得点で圧倒した。

関西勢の優勝は故平尾誠二さんを擁して3連覇した84年度の同大以来、36大会ぶり。93年度に関西Cリーグ(3部)を戦った古豪は、大阪の公立校・日新出身のCTB市川敬太(4年)が4トライの大活躍。無名選手の成長でつかんだ栄冠だった。新型コロナウイルス集団感染のどん底から、史上10校目の頂点。関西に歓喜をもたらした。

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ノーサイドを待たず、天理大ベンチで見守る主将の目が潤んだ。決勝最多55得点。緊急事態宣言下の静かな国立に「日本一や!」と声が響いた。花園には縁のない兵庫・甲南高出身の主将、フランカー松岡が「めちゃくちゃうれしいです!」と叫んで号泣した。

開始40秒、プロップ小鍛治が相手ボールを奪い、敵陣になだれ込んだ。3分にCTB市川が先制トライを挙げ、11分までに14-0。22-7の前半終了間際にはCTBフィフィタが仕掛け、走り込んだ市川が3本目のトライを決めた。無名校で育った男は「人一倍努力して、去年負けた早稲田にリベンジできて良かったです」と右手を握った。2季前の決勝で敗れた明大から準決勝で6トライ、前回大会準決勝で屈した早大には8トライ。名門を序盤からのみこんだ。

93年、小松監督がコーチとして就任した天理大はCリーグ(3部相当)。控え選手は大阪ミナミの繁華街に繰り出し、ディスコで朝まで酒を飲んでいた。1年でBリーグに昇格したが、日本一は夢のまた夢。95年の監督就任後からAリーグ復帰に7年要した。走りながらのパスを繰り返す「ランパス」は廃止。2対1のパスで理論的に相手を抜く喜びを伝えた。徐々に試合に出始めた。

スポーツ推薦は十数人。才能ある選手は早明、関西なら同大に流れた。高校に足を運ぶと独走する相手を最後まで追いかける選手に声をかけた。08年に日本航空石川高から2人の留学生が入学。理論的な指導に留学生が調和し、結果が出ると無名選手が憧れた。小松監督は「電話で体格を聞いたら決まって『170センチ』。うちは190センチも歓迎ですが…」と笑い、173センチの市川らを磨き上げた。

高校日本代表は早大8人に対し3人。オフシーズンは45分間、階段を駆け上がった。山下大輔コーチは「1発の強さは高校日本代表にかなわない。でも、体を当て続けることはできる」。脚をけいれんさせ、励まし合って強みを磨いた。

昨夏は新型コロナウイルスの集団感染で約1カ月、活動休止を余儀なくされた。誹謗(ひぼう)中傷の一方、温かい励ましが支えだった。小松監督は言った。

「我々だけでは到底乗り越えられなかった。勝つことができて、喜んでもらえて良かったです」

努力は、最高の景色につながっていた。【松本航】

◆同志社の3連覇 82~84年度に史上初の3連覇を達成。82年度は決勝で明大に18-6。日本選手権は新日鉄釜石に8-21で敗れた。83年度は決勝で日体大と対戦し31-7で圧勝。日本選手権は再び新日鉄釜石と対戦し10-35で敗戦。84年度は決勝で慶大に10-6で勝利。今は亡きCTBの平尾誠二さん、ロック大八木淳史、FB綾城高志らを擁し3連覇を達成した。日本選手権は3年連続で松尾雄治を擁する新日鉄釜石と対戦。同大は17-31で敗れ、新日鉄釜石は7連覇を達成する。