女子は森秋彩(あい、17=茨城県連盟)が初優勝した。決勝では唯一全4課題で全完登し、他の5人を圧倒。東京オリンピック(五輪)代表は落選したが、その悔しさを「原動力」に変えて、24年パリ五輪を目指すことを誓った。

森が無観客の会場を魅了した。155センチの小さな体を駆使し、イメージ通りに登り切った。準決勝を全体6位のギリギリで突破しただけに、決勝では「楽しもう」と吹っ切れた。終わってみれば、全4課題のうち唯一全完登。東京五輪代表の野中生萌(XFLAG)と野口啓代(TEAM au)を抑えての堂々たる初優勝だ。17歳の大器は「このような時期に大会に出られるだけで幸せなのに、まさか優勝するとは思わなかった。なんだか先輩たちに申し訳ない。決勝は運良く得意課題で、私が本当に優勝して良いのか…」と謙虚にはにかんだ。

感情を表に出さず、冷静に物事を進める性格だが、昨年12月の“出来事”が一層の奮起を促した。東京五輪代表選考基準を巡る裁判が決着し、代表から落選。これほど悔しい出来事は人生初で、今大会への「大きな原動力」に変えた。「五輪への道が閉ざされてショックだったけど、いつまでも引きずってもパフォーマンスが下がるだけ。落とされて、『次は絶対』の気持ちが強くなった。この悔しさは忘れない」。

大会前や移動中には、ファンクラブに入るほど大好きなバンド「SEKAI NO OWARI」の「Fight Music」を必ず聞く。挫折しても戦い続けようと促す曲に、自身を重ねて常に気持ちを奮い立たせる。

現在は、3年後の夢舞台に照準を定める。パリ五輪の複合はスピードを除く、ボルダリングとリードの2種目。リードは19年世界選手権3位でジャパンカップを3度制した得意種目だ。競技を始めた6歳の時の「初心の気持ち」を忘れずに、クライミングを楽しめば結果は自ずとついてくる-。「大会ではプレッシャーもあるが、『人対自分』ではなく『コース対自分』を楽しみたい。楽しさが強さにつながる」。17歳の勝負師が、真価を発揮するのはこれからだ。【峯岸佑樹】