男子100メートルバタフライで、水沼尚輝(24=新潟医福大職)が、初の五輪代表に内定した。19年世界選手権銅メダル相当の自己ベスト51秒03を出して優勝。派遣標準記録51秒70を突破した。日本は五輪、世界選手権を通じて同種目でメダルなし。池のコイと泳いで育った30センチの足を持つ24歳が、新しい歴史を刻む。2位川本武史(26)も51秒25を出して、五輪代表に内定した。

    ◇   ◇   ◇

ラスト5メートルでとらえた。水沼は、前半を23秒85の3番手でターンした。先行した川本に近づく。「ラスト2メートルは腕が上がらなかった」。それでも得意の後半で逆転。激戦を制して、日本新までわずか0秒03差。「逆転はうれしい限り。派遣標準を切って優勝する。うれしい限り。五輪では、しっかりメダルが獲得できるように50秒台中盤を目指したい」と気持ちを高めた。

水が大好きだった。幼少期は、祖父の家の池で泳ぐコイをじっと見て、ぽちゃんと入って一緒に泳いだという。特長は30センチの足。2歳上の萩野公介と同じ栃木・作新学院高でサイズアップ。革靴を探すことに苦労し、お気に入りのデザインのシューズはサイズがなくて「何でオレはこんなに足が大きいんだ」としょんぼりすることも。だがその足が大きな推進力を生む。

優勝時に、ゴーグルを首から下げるのがお決まり。リスペクトする12年ロンドン五輪200メートル金メダルのチャド・ルクロス(南アフリカ)をまねている。

初出場だった19年世界選手権は、決勝でルクロスに話しかけることも目的だった。しかし0秒01差で準決勝敗退。「100分の一秒の悔しさを次に生かしたい。チャド選手としゃべる待遇にないです」と無念の顔。続けて「もしチャンスがあれば、写真が撮りたい。せっかくなので」とおどけて周囲を笑わせてから2年。東京五輪で真っ向勝負をするチャンスを得た。

高校総体は決勝に残れなかった。下山監督に誘われて新潟医療福祉大に入った。国立スポーツ科学センターをモチーフにした充実の施設で花を咲かせた。下山監督は「地方でも成果が出せると証明できた」と感無量の表情。水沼は「この種目は誰もメダルをとっていない。僕自身が新しい歴史を刻んでやろうと思う」と宣言した。【益田一弘】

◆水沼尚輝(みずぬま・なおき)1996年(平8)12月13日、栃木県生まれ。小1で競技を始める。作新学院-新潟医療福祉大。現在は同大職員。得意は100メートルバタフライ。19年日本選手権優勝で日本代表に初選出。同世界選手権で準決勝進出。180センチ、83キロ。