東京オリンピック(五輪)の団体で日本悲願の金メダルを獲得したエース山田優(27=自衛隊)が、準々決勝で敗退する波乱が起きた。

個人、団体ともに世界ランキング1位で、今大会も第1シードで優勝候補の大本命だった山田は2回戦から出場。順当に序盤2試合を勝ったものの、3戦目で「プライベートでも仲がいい、弟子みたいな存在」とかわいがる松本龍(日大)に11-15で敗れた。

試合後、報道陣の取材に「金メダルを取れた時も信じられなかったんですが、今はそれと同じくらい信じられない…」。金メンバーでは見延和靖、宇山賢が欠場しており「五輪代表は2人だったので、せめて加納(虹輝=同じく金メダリスト)との決勝までは行かなきゃなと思っていたんですが…。金メダルの重圧にビビッてしまった。緊張してしまった。後輩相手に気負ってしまった。そして簡単に負けてしまった。悔しい気持ちしかない」と現実を受け止めた。

五輪後は表彰やテレビ出演など多忙を極めた。漢字では同姓同名のモデル山田優からの反応もあり、フェンシング山田の「優」は「まさる」と読むことも一定程度、定着した。ツイッターのフォロワー数も、ほぼ10倍の5000人超へ。取り巻く環境は変わったが、本人は「人数が多い自衛隊の中でも声をかけてもらえるようになった」ことが、うれしさを実感できる基準だ。一方で「五輪後の練習は半日を2回しただけ」だったといい「バランスも考えていかないと」。人生を懸けてきた大舞台の後だ。調整の難しさを身をもって知り、敗戦後のツイッターでは「若い世代の選手が育ってきているのはうれしいこと。でも負けるのはやっぱり悔しい。いつまでも挑む心を持ってないとダメだな」とつぶやいた。

大会前には初めて世界ランク1位になったが、苦笑いした。「全日本で優勝できたら気持ち良かったんですけど。今までも(ランク)2位とか4位とか。五輪も個人ではメダルが取れなかった(6位)ので実感がわかない。うれしいんですけど、モヤッとします」。11月にも再開される可能性があるワールドカップ(W杯)で、世界トップ評価に恥じない結果を残していくしかない。「世界ランク1位といっても、守りに入ると今回のような結果になってしまうので」と気を引き締めて再出発する。

金メダルを持つ世界ランキング1位の選手が、国内大会で大学1年生の後輩に負ける…。怖い世界だが、これもフェンシングの、エペの魅力なのか。「金メダルうれしい、で終わってしまったら発展につながらない。自分の言葉でもいいんでSNSで発信したり、競技を知ってもらえる入り口が山田優だったらうれしい」。メジャー化への役割も自任しつつ、次の24年パリ五輪へ。個人では初の金メダルを目指し、団体では2連覇へ。ふがいなさを再出発の糧にする。【木下淳】