冬季五輪2連覇の羽生結弦(27=ANA)が、初めて3大会連続の金メダル獲得を狙うと明言した。フリー211・05点、合計322・36点で2年連続6度目の日本一。来年2月の北京五輪代表に確定し「4回転半(クワッドアクセル=4A)を決めた上で優勝を目指す」と宣言した。試合で初めて挑んだ4回転半は失敗したが、引退を考えて、死の恐怖を乗り越えて94年ぶりの3連覇、世界初成功の夢を北京に持ち越した。

【男子フリー】羽生結弦 圧巻Vで北京五輪内定!2位宇野昌磨/全日本男子フリー詳細>

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「正直、考えていなかった五輪。3連覇も考えずに過ごしてきた。子供のころの夢は2連覇だったから。ただ僕しかいない。3連覇の権利を有しているのは。描いた夢ではないけど、また夢の続きをしっかりと描いて。あのころ、前回、前々回とは違った強さで臨みたい。4回転半という武器を携えて優勝を狙います」

北京五輪代表の発表会見で羽生の言葉が強すぎた。試合も強すぎた。超満員1万7809人が凝視する中で跳ぶ。4回転半。フリー「天と地と」の冒頭、いった。緩やかな助走、カウンター(後ろ向きから前に反転する動作)から前に踏み切った。回った。立った。両足。どよめいた。ただ回転不足だった。ダウングレード。3回転半と判定された。減点された。「すごく消耗した」。その全てが挑戦となって足跡が残った。

本気だった。昼の練習で叫んだ。「信じろ!」。その後に提出した予定構成表に「4A」と初明記した。結果は失敗となったが、歴史的な1歩を踏み出した。

「誰も跳んだことない。誰もできる気がしないと言ってる。過程は、ひたすら暗闇を歩いている感じ。頭打って脳振とうで死ぬんじゃないか」。生死を賭けて「世界が終わるんじゃないか」と思いながら「氷に体を打ちつけて死にいくようなジャンプ」を練習した。

本格的な練習開始から3季目。先月のNHK杯の前に「やっと立てた」。光が差した2日後に右足首を捻挫した。「ストレスで食道炎になって熱が出て1カ月間、何もできなかった」。

頭に2文字がよぎった。

「やめようかな」

ふさぎこんだ。「自分の限界を感じた」。苦悩は12月21日まで続いた。「焦っている。早く跳ばないと体が衰える。何で跳べないんだろ。こんなにやっているのにできないなんて…。やる必要あるのかな」。この全日本に出るかどうか。決断する最後の仙台での練習日。90分間、跳び続けた。「あと4分の1で360度回れる」「(降りたと認定される)q判定(4分の1回転不足)ぐらいで4発、降りられた」。やめたくない。「皆さんが懸けてくれてる夢だから」。その思いは北京への道と交錯した。

孤高の歩みは自身も高めた。4回転半こそ跳べなかったが、非公認ながらフリーも合計も、米国のチェンを抜く今季世界最高スコアをマークした。代表最年長27歳にして軽々、五輪切符を得た。「4回転半へのこだわりを捨てて勝ちにいくのであれば、ほかの選択肢もある。ただ、北京を目指す覚悟を決めた背景に4回転半がある。しっかりと成功させた上で1位を目指したい」。3連覇と4回転半の夢は北京で。【木下淳】

◆おわびと訂正 26日の試合後の記事で、羽生選手の発言引用箇所に一部誤りがありました。確認が不十分でした。おわびして訂正します。