東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)のフッカー森太志(34)は、涙をこらえきれなかった。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(東京ベイ)戦の後半21分。途中交代となり、タッチラインに向かって進むと6974人の観衆から拍手が送られた。ベンチの仲間も手をたたいていた。自然と涙があふれ出た。

「選手としての責任を果たせなかった僕に対し、チームメート、ファンの方の温かい拍手がうれしかったです」

1週前はどん底だった。

準決勝の東京サントリーサンゴリアス(東京SG)戦。6点を追う最終盤、逆転への好機をつぶした。

ラインアウトのスローワーとしてボールが真っすぐ投入されない「ノット・ストレート」や投球動作が一連にならない「ダブルモーション」など反則を連発。敗戦で初代王者への道が途絶え、試合後は頭を抱えた。

「チームのシステムが間違っていた訳じゃない。それでもチームメートは『お前のせいじゃない』と言ってくれました。ただ、あれは、僕の責任です」

3位決定戦に向けた1週間。準決勝は途中出場だったが、今度は首脳陣から先発での起用を告げられた。

ブラックアダー・ヘッドコーチは「彼を先発させたいと最初に決めました。スポーツでこういったことは起きる。森選手に『自分たちは信じている』と伝えたかった。全員ミスをすることがあるが、お互いが助け合うことを考えていきたい」と理由を明かした。

それでも森は苦しんだ。

「逃げたい気持ちもありました。(後輩で日本代表候補に選ばれた)橋本(大吾)は代表のセレクションになる。若いフッカーの選手も出たかったはず。その中で出場時間をいただいた。そこには自分の責任がある。それを出したいと思いました」

迎えたこの日。ラインアウトでのミスもあり、思い描いていた通りの“汚名返上”とはいかなかった。

それでも、周囲に気づかされたことがあった。

「(準決勝の)サントリーの選手はノーサイドの後、喜ぶ権利があるのに、すごく心配そうな顔をしてくれていました。(相手の)セミセ・タラカイ選手が声をかけてくれて、うれしかった。(3位決定戦の)クボタの選手も(ラインアウトの際に)『あいつダメだぞ』とか、言葉でプレッシャーをかけても良かったと思う。でも、誰も言わなかった。『ラグビー選手っていいな』と思いました」

もがき苦しんだ2試合を経て、新たな目標ができた。

「(ファンやラグビー仲間に)心配をかけました。来年、チャンスがあれば、心配をかけないようにしたいと思います」

仙台育英高、帝京大を経て、BL東京一筋の34歳。次は感謝とともに、最高の笑顔を届ける。【松本航】