<競泳:日本選手権>◇4日目◇5日◇東京辰巳国際水泳場

 女子200メートルバタフライの星奈津美(21=スウィン大教)が、2分4秒69の日本新記録で2大会連続の五輪出場を決めた。昨年の世界選手権優勝記録(2分5秒55)を上回り、一躍ロンドンの金メダル候補に名乗りを上げた。

 星のたたき出した記録に、誰もが驚いた。大型スクリーンに表示された数字は、2分4秒69。会場がドッと沸いた。日本記録を1秒22短縮しただけではない。昨年の世界選手権で優勝した中国の焦劉洋が出した2分5秒55を、0秒86も上回った。プールから上がった星は「夢みたいです、信じられない」。控えめな笑みを浮かべながら、率直な言葉を並べた。

 前半から飛ばした。身長164センチと大きくないが、テンポのいい泳ぎ。100メートルの折り返しを1分0秒65で入った。自身の昨年の世界選手権決勝(4位)を0秒71上回るハイペース。そこからラスト100メートルを粘り強く、耐えた。躍動感あふれるトビウオのような泳ぎは衰えず、そのままフィニッシュ。星本人が目を丸くする驚異的な記録が誕生した。

 世界選手権は0秒01差及ばず、表彰台を逃した。その悔しさがバネとなった。「100分の1秒を、いつも思い出しながら練習しました。何回もレースを見直して『もうこんな思いはしたくない』。悔しい経験がプラスになった」。「悔しさ貯金」が成長の糧となり、大きな壁を突き破ってみせた。

 2月は中国・大理で高地合宿。チューブを引っ張り、パワーアップを図った。ただ疲労から記録が上がらず、不安を抱えた。母真奈美さんに電話した。高校時代に甲状腺に異常をきたす「バセドー病」にかかり、泳げない時期もあった。そんな時、母の言葉が支えとなった。晴れて五輪切符を手にし「母は偉大です」。晴れの舞台で、感謝の言葉を添えた。

 日本代表平井ヘッドコーチも「あれは大記録。びっくりです。原田コーチと一緒に金メダルを狙ってほしい」。ただ、この記録を合図にライバルたちも黙ってはいない。金メダルのラインは2分3秒台に突入する可能性もある。それを踏まえ、原田コーチは「メダルの色を見据えて戦略を立てていきたい」。びっくり日本新記録で金候補に名乗り。日本のスターが、辰巳から誕生した。【佐藤隆志】

 ◆星奈津美(ほし・なつみ)1990年(平2)8月21日、埼玉県生まれ。春日部共栄高-早大4年。164センチ、53キロ。