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為末大氏×高桑早生氏対談 前編-2

――左膝下を切断する時の覚悟

高桑
 発見が遅くて、3日後に手術(の予定)を入れたから切るか残すか決めてくれと、病院の先生に言われて、どうしたらいいかわかんない状況で。空気的には切断ムードというか、切った方がいいんじゃないのという空気になっていたので。私がスポーツをすごく好きなのを先生がご存知だったので、「これからもスポーツしていきたいんだったら切断した方がいろいろできるんじゃないの」という言葉をもらって。スポーツできなくなっちゃうのが嫌だったので、スポーツできるんだったら義足になりますという感じでしたね。
為末
 早い時期だよね。まだそんなにパラリンピックに義足をつけて出ている選手がいない頃でしょ?
高桑
 本当に私はたまたま運が良くて、私の義足を当時作ってくれていた方も私と同じ病気で足を切断されていて、彼も王子のスポーツセンター(東京都障害者総合スポーツセンター)で陸上をされている人だったので、「見に来ない?」と言われて。練習会を見に来て、その時、初めて自分と同じ下腿(かたい)義足の人に出会って。その人がすごくきれいに走っている姿にちょっとした感動を覚えて、陸上競技っていう選択肢もあるんだなって思いましたね。
為末
 競技属性はあると思うんですけど、陸上の場合はそれが顕著で、自分の体の観察というのがすごく大事になるんですね。多くの球技はどちらかというと意識は球の方にいくし、チーム競技も仲間とか敵に意識がいって、格闘技とかもそうだけど。陸上だけは突かれもしないし、打ちもしないので、唯一、地面に自分の足をつく感じかもしれませんけど、どうしてもそこに意識がいくんですよね。それが陸上の特性だと思いますね。あとは自分の気持ちで負けたとかっていうこともわかりやすいんですよね。「緊張でできなかったな」とか、「プレッシャーでできなかったな」っていうのがチーム競技の場合はもうちょっとぼやけると思うんですよ。陸上の場合は自分で完結しちゃっているので、そういう意味では心とか体に興味がいきやすい競技ですね。

――健常者、障害者かかわらずハンディキャップを克服するには

為末
 話をしていく中で共通点を見いだすとしたら、やっぱり当たり前のことなんですけど、起きてしまったことではなくて、これから何ができるかということに意識を置いていくということだと思うんですね。同列にしていいかわからないけど、老いるんですよね、競技を長くやっていると。若さはもう帰ってこない。その若さにこだわった練習の仕方をしていると、どうしても無理が出てくる。今の自分が置かれた状況にピッタリ合う練習をしていくというのが大事。だから与えられた条件で、よりよいものを出していくという努力をしていくことがすごく大事。パラリンピックの方が示唆的だと思うんですよね。みなさんがスポーツに感動されるのはそういうところの要素じゃないかと思います。持って生まれたすごい才能を持った選手が勝ちましたという話じゃ、感動が弱いというか、何かしらこういうものを克服して勝ちましたとか、勝たないにしてもすごく努力しましたというのは、スポーツの魅力の結構深いところにあるんじゃないかなと思います。メンタル面は競技ということおいては何ら違わないんじゃないですかね。人生ということにおいては、少し違うんでしょうけど。30年ぐらい前だったら、勝負がぬるかったのかもしれませんけど、もう今や競争も激しくなり過ぎているくらい。そういうプレッシャーとか2020年が決まって、周囲から期待がかかってくる感じとかは同じだと思います。
高桑
 私の場合は、中学生で義足になっているので、親のサポートがありました。親がとにかく私を甘やかさなかったですね。義足を理由にさせなかったというか。当時は子ども心に結構しんどかった部分はありますけど、今となってみればああやって親が厳しく接してくれてよかったなと思いますね。自分が義足っていうことを乗り越えるというか、受け入れる。「義足であるから何ができない」じゃなくて、「何ができるんだろうな」ということを考えていく。為末さんもおっしゃったように、与えられたものを生かしていく方向に考えられるようになったのは、親の影響が大きいですね。

――金銭面でのサポートも必要

高桑
 競技で使用している義足は、かなり安く済ませてもらって、それでもトータルで90万円を超えています。消耗品なので、以前使っていた板は年に1本のペースで変えていましたね。
為末
 援助の制度があればいいですよね。もうひとつ導入部分の安価な義足というのも必要だと思いますね。始めるといきなり何十万円というのはね。
高桑
 それがきっかけで競技人口が増えないというのもあると思うので。下腿義足の選手ってすごく少ないんですけど、1回やるのに何十万円もかかっちゃうから、義足を使わない競技をやるというのもあると思うんですよね。安価で、言ってしまえばタダで手に入るような義足があれば、もっとスポーツを始めやすいんじゃないかなと思いますね。
  • 【プロフィル】
◆為末大(ためすえ・だい)
 1978年(昭53)5月3日、広島市生まれ。広島皆実高―法大。男子400メートル障害で世界選手権2度(01年、05年)銅メダル。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。現在は社会イベントを主宰する傍ら講演活動、執筆業、テレビのコメンテーターなどマルチな才能を発揮。爲末大学の公式サイトは、http://tamesue.jp/
◆高桑早生(たかくわ・さき)
 1992年(平4)5月26日、埼玉県・深谷市生まれ。小学6年時に骨肉腫を発症し、中学1年時に左足膝下を切断。中学ではソフトテニス部に所属。東京成徳大深谷高で陸上部に入り、頭角を現す。12年ロンドンパラリンピック女子100メートル、200メートルで7位。14年仁川アジアパラリンピック女子100メートル銅メダル。慶大体育会競走部所属。


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