どちらが首位で、どちらが最下位か分からなくなるような試合だった。首位の阪神は数え切れないエラーで失点を繰り返した。投手陣が崩壊しかかっている最下位のヤクルトは、ケガから復帰した小川泰弘が今季初登板で7回2失点。チームの危機を救った。

まず、小川の投球内容を振り返ってみたい。真っすぐは140キロ前後しか出ないが、ベテランらしさは出ていた。7回まで打者26人に対し、初球がボールになったのは3人だけ。圧巻だったのは、森下に甘く入った真っすぐを本塁打されるまで、初球の見逃しストライクは9人で、8人が真っすぐで奪ったものだった。

小川のストレートは140キロ前後だが、球種は豊富に持っている。確かに狙い球は絞りにくいタイプだろう。この手のタイプは球種に絞るより、コースに絞った方がいいが、ヤクルトはリリーフ陣が手薄な状況だった。阪神打線は小川に球数を投げさせ、後半勝負という戦略だった可能性はある。しかし、簡単に初球の真っすぐを見逃し過ぎ、かえって小川を楽にしてしまった。

4回までに5点の援護をもらった小川は、スタミナが切れかけた6回からは初球に変化球を使ってカウントを取りにいった。この辺の切り替えはさすがで、この2イニングは打者7人に対して変化球で3人の初球ストライクを奪った。初球のボールは、ノイジーに対しての1球だけだった。

離脱中で2軍戦の登板は3度。5回を投げきった試合はなかった。それなのに7回2失点で球数は93球。2ボールになったのは1度もない。ストライク先行が投手にとってどれだけ優位になるか、お手本のような内容だった。

心配なのは、次回の先発までにどれぐらい回復しているか。点差があり、楽なピッチングができたが、復帰初戦の緊張感からくる疲労は侮れない。手薄な投手陣の救世主になれるかは、次回の登板を見てみないと分からない。しかし離脱してチームに迷惑をかけた分を取り返したいという気持ちが伝わってくるピッチングだった。(日刊スポーツ評論家)

阪神対ヤクルト ファンの歓声に手を振って応えるヤクルト小川(撮影・上山淳一)
阪神対ヤクルト ファンの歓声に手を振って応えるヤクルト小川(撮影・上山淳一)