超変革-。掲げたスローガンを掛け声だけに留まることなく、チームを変えていくべき形へと、ちゅうちょすることなく実行しているところにOBの一人として今年の阪神に大きな期待を寄せたい。顕著に表れているのが若手の起用だ。高山が新人ばなれした活躍をしている。江越が持ち味を発揮している。陽川も一発をたたき込んだ。北條、横田は必死に頑張っているし、板山も昇格するや即スタメンでの起用だ。新戦力の出現はチームの活性化に繋がる。若い力とベテランの力がうまくかみ合ったとき、チームは最もバランスのとれた戦力になる。若手の台頭。頼もしい限りだが、鳴尾浜球場がちょっぴり寂しくなった。

 そして、原口文仁捕手(24)の昇格だ。これだけひたむきに野球に打ち込める選手はそうはいない。野球漬けの毎日。本当に“野球の神様”はいるね、同じ球界でプレーした人間として、いちOBとして人一倍の努力が報われた昇格は実にうれしい。それも、支配下登録、1軍昇格。同時にやってのけたのはあっぱれだ。

 超真面目人間。スポーツマンの基本であるあいさつはきっちりできる。練習の虫。一人ででも黙々と野球に取り組む姿勢は見上げたもの。おそらく、鳴尾浜球場を一番有効に利用したには原口ではなかろうか。帝京から打てる捕手と期待されて入団したものの、度重なる腰痛、左手尺骨骨折などの不運があって、4年目からは育成選手に降格されたが、そこは真面目人間、ぐっと我慢の子。投げ出すことなく野球と真剣に向き合ってきた。一時は一塁手として、三塁手として試合に出場したこともあったが、キャッチャー・原口を夢見て球界入りした男だ。口には出さないがプライドはある。ここでも神様は見ていた。捕手でのひのき舞台デビュー。最高にうれしかったはずだ。

 掛布監督独特の育成法も的を射ていた。陽川が1軍に昇格したとき、空いた4番は誰に打たせるか注目した。私の予想はペレスだったが、監督が抜てきしたのは原口だった。「4番バッターの重みを感じることは1軍に昇格したとき必ず役に立つ」は自分の体験から学んだ発想で、原口は必ずや1軍で活躍する選手であることを見抜いての起用だったのだ。見る目は鋭い。「彼は本当によく練習する選手です。一人でも自分から進んでやりますし、この世界で一番大事な継続する力を持っていますから」。同監督が言いたいのは、自分で考え、自分で工夫して進化していく選手なのだ。

 性格的にもキャッチャータイプ。高校2年からの捕手転向らしいが、何事にも準備をきっちりしておかないと気が済まない選手。原口本人も常々「しっかり準備しておかないとやはり不安ですし、ビデオを見たり、コーチの人にアドバイスを受けながら勉強します」と語っていたし、相手バッターの現状。味方投手の調子などを把握するのは苦にならない、捕手として“やるべきことをやらずしていい結果は得られない”ことは十分承知“いい結果はどれだけ準備をしたかによって決まる”こともわかっている。ただ逆に“準備をしたからといって必ずいい結果を出せる保証はない”ことも頭にいれておかないとリード面で迷路にはまり込み悩み苦しむことになる。柔軟な頭も必要。そこで必要になるのが状況判断であり、洞察力だ。捕手-。本当に奥の深いポジションである。

 苦節7年。登録された試合で打席に立った。プロ入り初安打を放った。マスクをかぶった。あくる日には犠牲フライを打って、同点となる打点をあげた。そして、3日目には先発出場して岩貞を好リードした。「本当にびっくりでしたが、ヒットは出ましたしユニホーム問題も含めてインパクトのある試合で、一生忘れられないデビュー戦になりました。感謝ですね。これからも一生懸命努力します」やっとつかんだチャンス。まだ経験不足でこれから実戦を積み重ねて成長していく選手だ。いま阪神に正捕手と言えるキャッチャーはいない。原口はそれをたぐり寄せるだけの努力をしてきた。

 超変革。現時点では「金本-掛布」コンビの域はピッタリ合っている。若い力とベテランの力がうまく合体するのはいつか…。楽しみだね。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)