野球用具メーカーの名門「SSK」の協力を得て、道具選びのイロハを紹介します。バット編の第2回です。

(2016年2月3日付紙面から)

少年~高校野球のバット(左から)。長さと重さの他「バランス」が選択基準に加わる
少年~高校野球のバット(左から)。長さと重さの他「バランス」が選択基準に加わる

 体力と技術の向上とともに、バット選びも変わっていく。SSK社の小林邦夫さん(55)が言う。「長さと重さに加えて『バランス(重心)』という要素が加わってきます。選び方もバランスの比重が高くなっていきます」。先端の形状。ボール2個分程度の打球部(芯)の位置と太さ。グリップの太さ。グリップエンドの形状。規約の範囲内で工夫を凝らし、さまざまなバランスが生まれる。

 打撃タイプに合った1本を探す。先端寄りにバランスのあるバットを「トップバランス」、中央寄りを「ミドルバランス」、手元寄りを「カウンターバランス」と呼ぶ。店では、必ずバランス表記を確認し、手に取ってみよう。同じ重量でもトップバランスは重たく、扱いにくそうに感じる。

 「重くて長いトップバランスを使えば、もっと強く、遠くに打てるのでは?」。体が大きくなってレベルも上がれば、そんな感覚を持つのが一般的ではないか。しかし今、パワーのある高校球児もミドルバランスを好んで使う潮流がある。一方で、アベレージを追求するイチロー(マーリンズ)らは、打球部から手元へ細く絞り込まれた“超”トップバランスを使っている。

 一見不釣り合いに思えるバットを選ぶのには理由がある。日進月歩で選手の技術やパワー、バットの品質が上がり、スイングの考え方も変わってきている。「強打者=トップバランス」「アベレージヒッター=ミドル~カウンターバランス」。この先入観を外すことが、高いレベルのバット選びでは大切になる。

 「両脇を絞る。肘をたたむ。その状態で、上からボールにぶつける。ダウンスイングだ」。幼い頃に教わり、わが子にも教えている親御さんは非常に多いだろう。手元にバットがあれば、その通りにゆっくりと、振ってみてほしい。上から見た軌道は、体を中心に外回りとなる。上からボールをたたけばヘッドが返り、変化球を拾えない。

 今、成績を残している多くの選手のスイングは違う。向かってくる側の肘を絞らず、グリップを出す。ポイントは手前で、ボールに当ててから押し出す。上から見たバットの軌道は、体の内側から円を描く。横から見た軌道は、レベル~ややアッパー気味になる。日本ハム中田や、ソフトバンク柳田をイメージすればいい。

 イチローはパワーと技術がずぬけ、しかも両立している。操作の難しいトップバランスを駆使し、メジャーの強いボールに負けないよう芯に合わせ、安打を稼いでいる。小林さんは「内角なら肘を抜いて、面でボールを押し出す。この動作を、よりスムーズに行えるよう設計されているのが、今のミドルバランスです」と説明した。

 重量そのものの“誤解”も解消しなくてはいけない。「重いバット=飛ぶ」とは一概に言えない。ヘッドスピードと重量の関係を知れば、理解がもっと深まる。(つづく)【小島信行、宮下敬至】