高校野球は冬の練習期間に入り、ここ東北宮城でも小雪が降る中での練習が増えてきた。12~2月は体力強化や、個々の課題に取り組む絶好の蓄積期間となる。

 ダルビッシュ有投手(レンジャーズ)の母校で、今夏7年ぶりの甲子園出場を果たした東北が、今季最後の練習試合を駒大苫小牧を招いて行うと聞き、11月下旬に仙台市泉区のグラウンドを訪ねた。

 ダルビッシュ投手が3年の夏に(2004年)、駒大苫小牧が初の全国制覇。その時の主将が、現監督の佐々木孝介監督(29)である。ここから3年連続で夏の甲子園決勝に進んだ栄光や、2学年下の田中将大投手(ヤンキース)が楽天で獅子奮迅の活躍を見せたことは周知のとおり。宮城の野球ファンにとって、このカードは夢の顔合わせではないか???…と思っていたら、やはり。スタンドには地元少年野球チームを含め、100人を超える観衆が集まった。東北・我妻敏監督(34)は注目度の高さに「冬の甲子園ですかね」とほほ笑んだ。共通の野球指導者の縁で、この初対戦が実現したと言う。“オール1年生”で臨んだ駒大苫小牧を跳ね返し、東北が6対3で勝利した。


 この二校。試合以外で着眼したい共通点があった。どちらも20、30代の若いコンビでチームを指導しているところ。東北の我妻監督は34歳、鈴木雄太コーチは25歳。駒大苫小牧の佐々木監督は29歳、小崎達也コーチは28歳。4者全員がOB。甲子園出場メンバーだ。若い指導者が“名門”の母校で指導する時、どのような継承と工夫を行っているのかが気になった。東北・若生正廣監督(現・埼玉栄監督)、駒大苫小牧・香田誉士史監督(現・西部ガスコーチ)という、実績ある恩師に育てられた監督同士だからだ。

 我妻監督は野球を通じての人間教育を「相手のことを考えて行動できるか、思いやりを持てるか」と話した。「お互いさま、おかげさまの気持ちを持って、相手を尊重して欲しい。そういった気持ちが野球のプレー1つ1つに表れる」。佐々木監督も「好きな野球を当たり前にできていることに感謝があるかどうか。今回の遠征も、誰がお金を出してくれているのか。感謝の気持ちがあれば試合の中での行動も変わってくると思うんです」と続けた。技術指導については、我妻監督は「技術指導する時は、選手に言い切らない。『もっとこうした方が良いんじゃないの?』と言って余白を与えています」。佐々木監督も「俯瞰(ふかん)の位置から全体を見ています。就任当初は、自分自身が(当時の)香田監督から学んだもの、日本一になるための練習を選手に求めて指導していました。いまは小崎コーチに任せ、自分は追い込みすぎない。極力抑えるようにしています」と話した。この日の試合後ミーティングでは反省点を挙げ「感謝している、って口には出すけど行動が伴っていないのは、中学生の時から成長してないってことじゃないの?」と、穏やかに、しかし強く。選手に一問一答式で言葉を投げかけていた。

 「一緒に考えて、選手に提案する」。それが今の選手に合わせたやり方だと両監督は言う。情報やモノがあふれ、取捨選択を繰り返しながら育ってきた今世代の選手たちには、両監督が通ってきた「言われた通りにやる」の指導法だけでは通用しない。根気よく、選手に細部を教えるコーチの存在も大きな力となっている。東北・鈴木コーチは「我妻監督が何をこだわって試合をするか。それを理解して、選手の末端まで伝えることが僕の役目です。嫌われても良いから練習で言い続けます」。駒大苫小牧・小崎コーチは「佐々木監督が抑えているぶん、時に僕が追い込むようにしています」。

 最近では、このような若手指導者の交流が活発化されており、東北地区では今年「U(アンダー)30の会」が結成されたと聞く。佐々木監督も「僕の世代も『61(ロクイチ)会』というのがあって、大阪で年1回集まっています」と話す。知識や悩みをシェアし、オリジナリティーを加える。

 思えば、2016年の甲子園優勝は、春が小坂将商監督(智弁学園、38歳)、夏が小針崇宏監督(作新学院、33歳)という、30代監督が覇権をつかんだ。継承される強い信念と、時代に合わせた柔軟な発想力。東北、駒大苫小牧の両監督の言葉から、今の選手たちを操縦する「コツ」を学んだ1日となった。【樫本ゆき】