高校野球の一時代が終わりを告げる。春夏通算5度の甲子園優勝を誇る横浜(神奈川)渡辺元智監督(70)が14日、今夏限りで退任することが明らかになった。疲労の蓄積による体調不良が理由で、後任は平田徹部長(32)が務める。ソフトバンク松坂を始め、プロ野球界に数々の教え子を送り込んできた名将は現チームを最後に一線を退き、総監督として同校のサポートに尽力する。

 高校野球界の雄が、今夏限りでの退任を決断した。体のメンテナンスを兼ねて検査入院中だった渡辺監督はこの日、退任について「自分の意識の中ではやれると思ってきましたが、体が限界に達しました」と語った。選手には13日の練習後、平田部長から伝えられた。

 横浜市内の長浜グラウンドに集まった報道陣に向け、平田部長、金子雅副部長(37)から経緯が説明された。平田部長は「ご自身はまだまだ続投を望まれていましたが、どうしても体調の問題を払拭(ふっしょく)できず断腸の思いで決断された。非常に残念です」と語った。同部長が学校側から次期監督としての打診を受けたのは、ゴールデンウイーク明けのこと。金子副部長も「小倉コーチが去り、今年は渡辺監督。(聞いた時は)頭が真っ白になりました。横浜高校野球部がこれから続くのか不安にかられました」と語るほど、突然の出来事だった。

 渡辺監督は04年に脳梗塞の1歩手前になるなど、これまでも病気と闘ってきた。現時点で大病を患ってはおらず、体力強化のため、今も約2時間のウオーキングを欠かさない。それでも、腰を中心とした疲労の蓄積は想像を超えていた。指導への情熱があるからこそ歯がゆく、自問自答する日々が続いた。

 渡辺監督は甲子園では98年に松坂(現ソフトバンク)を擁し春夏連覇を達成するなど、計5回の優勝へ導いた。指導のモットーは「野球を通して子どもを育てること」。そして、プロ野球界に多くのスターを送り出した。「選手と監督の信頼関係が何より大事と思ってやってきました。自分で決断したこととはいえ、選手を裏切る形になってしまい、申し訳ないです」と繰り返した。

 指揮を執るのは、全国高校野球選手権大会100周年を迎える今夏が最後になる。甲子園出場は、今春明大に進学した孫の佳明が在籍した14年春以来遠ざかる。春季神奈川大会は3回戦で桐蔭学園に敗退した。渡辺監督は「夏は大変厳しい戦いになると思いますが、頑張ります」と言った。ノーシードから最後の甲子園を懸けた神奈川大会は、7月11日に開幕する。

 ◆渡辺元智(わたなべ・もとのり)1944年(昭19)11月3日、神奈川県生まれ。横浜高では3番中堅手。3年夏は神奈川大会4強。神奈川大に進学後は右肩を痛め野球を断念。65年から母校コーチを務め、68年に監督就任。73年センバツで初優勝を果たし、春夏5度全国制覇。98年は甲子園春夏連覇、国体を制し、3冠を達成した。主な教え子はソフトバンク松坂、ヤクルト成瀬ら。

 ◆平田徹(ひらた・とおる)1983年(昭58)5月10日、神奈川県生まれ。横浜では3年時に主将を務め、01年夏の甲子園で4強入り。卒業後は国際武道大に進学した。ポジションは捕手。06年から横浜コーチを務め、10年に前任の小倉清一郎部長(70)の退任により、部長に就任。保健体育科教諭。