佐久長聖(長野)の最速143キロ右腕・安藤北斗投手(3年)が、登板機会なく涙で甲子園を去った。

 安藤は生まれつき両耳が聞こえず、右耳に人工内耳をつけてプレーする。終盤からブルペンで準備を開始。1点を追う9回の攻撃、投手に代打が出された。「同点か逆転で出る予定だった。ずっと仲間を信じていた」。願いは届かなかった。「すごい歓声が聞こえた。3年間は楽しかったけど、甲子園で勝ちたかった」。涙が止まらなかった。

 佐久長聖への進学を決めたのは「甲子園に出るため」。入部した日、PL学園(大阪)でドジャース前田健太投手(28)らを育てた藤原弘介監督(42)は、選手全員を集めて耳の障害について説明した。そして「特別扱いはしない」と言った。練習メニューは同じ。何度も怒られた。歓声などで仲間の声が聞きにくいこともあったが「口の動きやジェスチャーでわかるし、目の合図でも分かるようになった」。仲間も「誰よりも声を出して、励ましてくれるのが安藤」。絶大な信頼関係で結ばれた。

 4月に右肩痛で離脱したが、長野大会直前の6月に復帰。大会で好救援を見せて甲子園出場に貢献した。全国大会常連の大学へ進学を希望する安藤は「藤原監督、仲間、両親に『ありがとう』と言いたい。大学でも頑張る」。藤原監督は「投げさせてあげられなくて申し訳なかった。次のステージではエースを狙ってほしい」とエールを送った。