甲子園で前代未聞のクレーム劇が起きた。優勝候補の星稜(石川)が2回戦で敗退。試合後に、林和成監督(43)がサインの伝達行為があったとして、習志野(千葉)の小林徹監督(56)に猛抗議した。同点につながった場面に疑念を抱き、「フェアじゃない」と怒り心頭。物議をかもす事態となった。

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センバツで前代未聞の事件が起きた。第3試合終了後、報道陣の取材が終了するや、星稜の林監督が習志野の関係者でごった返す控室に乗り込んだ。小林監督と数十秒話して自校の部屋に戻ったが、しばらくして再び習志野側へ向かった。今度は強い口調で「ここで見せましょうか!」と言い放って部屋を出た。サイン伝達の疑念を直接伝えた。

監督同士が健闘をたたえ合うことがあっても、直接抗議するのは極めて異例だ。しかも舞台は甲子園。「聞いたことがない」と日本高野連の竹中事務局長も首を横に振った。高野連として処分を下す可能性は「ないと思う」と話し、すでに林監督から事情聴取した模様だ。

星稜側の主張では、サイン伝達を疑ったのは、習志野が初めて二塁に走者を進めた4回。1死二塁で4番打者を迎えた。その打席の途中、星稜ベンチは球審に、主将の山瀬慎之助捕手(3年)を通じて二塁走者から打者へ伝達している疑いがあると伝えた。星稜は習志野の初戦(24日)を甲子園で視察した時から疑心を抱いていた。本塁側から撮ったビデオで疑念を深め、対処法も話して、この試合に臨んでいた。

4番打者が安打を放つと習志野打線がつながり、星稜は同点の1点を奪われた。この回7人目の打者に1球目を投げたところで、林監督が二塁を指さし「セカンドランナー」と大声で叫んだ。星稜ベンチの不満を察した審判団が試合を止めて4人で集まり、協議をしたが判断には至らなかった。その時、二塁にいた走者には「まぎらわしい動作はしないように」と伝えた。

林監督は「協議してくれたが、試合が終わるまで続けていた。私がもっともう少し考えて指示を出すべきだった。これも野球。向こうのプラン通りになり、覆せなかったのは力不足」とぶぜんとした。因果関係は不明だが、4回の二塁に走者がいたときの結果は左前打、右前打、死球。審判の協議後は中飛。この1点が重く響き、優勝候補は2回戦で姿を消した。

両校が球場を出たあと、大会審判委員の2人が「お立ち台」に上がり、大勢の報道陣に対応。窪田副委員長は「現段階で、(サイン伝達は)ない、というのが最終結論」と話した。29日からは試合前、対戦校に対してフェアプレーの徹底を喚起することを決めた。

サイン伝達に罰則規定はなく、いわば「マナー違反」。林監督は「フェアじゃない」と取材に対して何度も繰り返した。大会の主役だった星稜が、苦い後味とともに甲子園を去った。

◆林和成(はやし・かずなり)1975年(昭50)7月23日、石川県生まれ。星稜の遊撃手として1学年上の松井秀喜と三遊間を組んだ。91年夏、92年春夏の甲子園に出場。松井が5打席連続敬遠された92年夏は2番打者。日大では準硬式野球部に所属。98年から星稜でコーチを務め、04年から部長、11年から監督。監督として甲子園出場6度目。社会科教諭。